最新記事
アート

自然をキャンバスに壮大なアートを生み出すランドアーティストたち 生分解性の絵具でサステナブルな活動

2024年2月6日(火)11時20分
岩澤里美(スイス在住ジャーナリスト)
欧州の2大ランドアーティスト、サイープの「Beyond Crisis」とデイヴィッド・ポパの「Born of Nature II」

欧州の2大ランドアーティスト「サイープ」と「デイヴィッド・ポパ」の巨大な作品は目が釘付けになる。左)Saype, Beyond Crisis, Leysin, Switzerland, 2020 ©Valentin Flauraud for Saype、右)David Popa, Born of Nature II, Emäsalo, Finland, 2021 ©David Popa

<広々とした大地をキャンバスにしたアートが私たちに伝えるものとは?>

いまやアートの世界でも、サステナビリティは無視できない話題といっていいだろう。サステナビリティをテーマにしたアート展やデザイン展は多く、環境に配慮した材料を使って制作するアーティストも増えている。

ヨーロッパ在住の2人、「サイープ」と「デイヴィッド・ポパ」の巨大な作品は目が釘付けになる。作品の全体像が見えるのは、頭上高くからドローンで撮影したときだ。2人とも生分解性のペイントを使っており、作品は短期間で消える。美しい自然をキャンバスにシンプルな色味で描く、2人のランドアートの世界をぜひ知ってほしい。

元看護師のサイープは、山や公園がキャンバス

フランス出身のサイープ(Saype)は、世界を飛び回り、山、海岸沿い、公園に生分解性のペイントをスプレーで吹き付けて絵を描く。昨年12月には、雪山を舞台にし、子ども2人がロープで支え合う姿を描いた作品も発表した。毎回、描く場所の草や土や砂の状況を見て、最適な色調にしている。サイープが描くプロセスはマス目が頼り。マス目の補助線を引いておいた原画を見ながら、小さい杭を等間隔で打って作った地面のマス目に原画を拡大していく。

以前サイープにインタビューした時、「少しでも間違うと絵全体の安定感が崩れるので、失敗はできません。とてつもない集中力を必要とします」と話していた。

最初に話題を呼んだ作品は、2作目のランドアート(2016年作)だった。スイスの山肌の1万平方メートルに描いた男性像「Qu'est-ce qu'un grand Homme ?」で、当時、草の上の作品としては世界最大だと絶賛された。サイープは、アトリエで通常サイズのキャンバスに描くことを基本にしていたが、その後、屋外の作品を次々と手掛けていった。作品への反響は常に大きく、ランドアーティストとして自他共に認めるようになった。

サイープがアートに目覚めたのは14歳の頃。才能はすぐに開花したが、アート以外の分野で経済力を付けるべきという母親のアドバイスで看護師の道に進んだ。看護の仕事は、趣味で続けていた絵への情熱をさらに燃やした。人が亡くなることに接していて人生の意味をとことん考えるようになり、自分の手で何かを生み出していくことが自分にとっては大切だと悟ったのだという。

インタビュー
現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ「日本のお笑い」に挑むのか?
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国粗鋼生産、11月は23年12月以来の低水準 利

ビジネス

吉利汽車、2.84億ドル投じ試験施設開設 安全意識

ワールド

中国とサウジが外相会談、地域・国際問題で連携強化

ビジネス

グーグルがパプアに海底ケーブル敷設へ、豪が資金 中
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 5
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中