スターの特権を悪びれずに利用...ショーン・ペンからゼレンスキーへのラブレター映画『スーパーパワー』は「見事な作品」
Sean Penn’s Ukraine Testimony

俳優出身のゼレンスキーと UKRAINIAN PRESIDENCYーHANDOUTーANADOLU AGENCYーGETTY IMAGESーSLATE
<ロシアによる侵攻の瞬間に居合わせ、大統領とも対面したショーン・ペンの監督作『スーパーパワー』の意義とは?>
特別扱いのリッチな映画スターが勇敢にも(というか、偉そうに)危険地帯を訪れて目撃者になり、現地の英雄的人物に自己投影した挙げ句、何ごともなかったように帰っていく、あの手の作品──。
俳優で映画監督のショーン・ペンが手がけたウクライナ侵攻のドキュメンタリー映画『スーパーパワー』(パラマウント+で配信中)を、そうあざ笑うのはたやすい。
本人も作品中で、嘲笑されるリスクを独特の早口で何度か語っている。「(伝説的テレビジャーナリストの)ウォルター・クロンカイトになったつもりか」。ある場面では批判者のまねをして自分に問いかける。
「救世主コンプレックスがあるとか?」
そして一瞬黙った後、ほとんど無関心な様子で静かに答えた。「興味があるんだ......時には、自分が力になれることもあると思う」
そうした姿勢だからこそ、本作には価値がある。
ウクライナ情勢を少しでも知っているなら、この映画から学べることは何もない。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領との3回に及ぶインタビュー(初回はロシアによる侵攻のわずか数時間前に行われた)からも、目新しい洞察は得られない。ペン自身、今年2月のベルリン国際映画祭で初上映された際、同作はウクライナ侵攻の「超初心者向けガイド」だと発言している。
共同監督のアーロン・カウフマンとペンは当初、全く異なる構想を抱いていた。コメディー俳優として、ウクライナの人気テレビドラマで思いがけず大統領になる主人公を演じ、2019年に現実世界でも大統領に転身したゼレンスキーの「風変りな物語」を描くつもりだったという。
シンパ色が丸出しでも
ペンら製作チームが最初にウクライナを訪れたのは21年11月。既に国境の向こうには、ロシア軍が集結していた。翌年2月24日、本格的な撮影に入って1週間がたった頃、ウクライナ侵攻が始まった。
ペンは残ることに決め、その後の約1年間でさらに数回、現地に足を運んだ。
ゼレンスキーに初めて話を聞く際、ペンはカメラを持ち込まないことにした。プレッシャーのない状況で自分を判断してもらいたい、という理由からだ。理解はできるが、不可解でもある。
同じ役者として、ゼレンスキーが既にペンに評価を下していたはずだ。ペンとのインタビューを、窮状をアピールする機会と捉えていたのも明らかだ。