最新記事
映画

スターの特権を悪びれずに利用...ショーン・ペンからゼレンスキーへのラブレター映画『スーパーパワー』は「見事な作品」

Sean Penn’s Ukraine Testimony

2023年10月20日(金)14時25分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)
ショーン・ペンとゼレンスキー

俳優出身のゼレンスキーと UKRAINIAN PRESIDENCYーHANDOUTーANADOLU AGENCYーGETTY IMAGESーSLATE

<ロシアによる侵攻の瞬間に居合わせ、大統領とも対面したショーン・ペンの監督作『スーパーパワー』の意義とは?>

特別扱いのリッチな映画スターが勇敢にも(というか、偉そうに)危険地帯を訪れて目撃者になり、現地の英雄的人物に自己投影した挙げ句、何ごともなかったように帰っていく、あの手の作品──。

俳優で映画監督のショーン・ペンが手がけたウクライナ侵攻のドキュメンタリー映画『スーパーパワー』(パラマウント+で配信中)を、そうあざ笑うのはたやすい。

本人も作品中で、嘲笑されるリスクを独特の早口で何度か語っている。「(伝説的テレビジャーナリストの)ウォルター・クロンカイトになったつもりか」。ある場面では批判者のまねをして自分に問いかける。

「救世主コンプレックスがあるとか?」

そして一瞬黙った後、ほとんど無関心な様子で静かに答えた。「興味があるんだ......時には、自分が力になれることもあると思う」

そうした姿勢だからこそ、本作には価値がある。

ウクライナ情勢を少しでも知っているなら、この映画から学べることは何もない。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領との3回に及ぶインタビュー(初回はロシアによる侵攻のわずか数時間前に行われた)からも、目新しい洞察は得られない。ペン自身、今年2月のベルリン国際映画祭で初上映された際、同作はウクライナ侵攻の「超初心者向けガイド」だと発言している。

共同監督のアーロン・カウフマンとペンは当初、全く異なる構想を抱いていた。コメディー俳優として、ウクライナの人気テレビドラマで思いがけず大統領になる主人公を演じ、2019年に現実世界でも大統領に転身したゼレンスキーの「風変りな物語」を描くつもりだったという。

シンパ色が丸出しでも

ペンら製作チームが最初にウクライナを訪れたのは21年11月。既に国境の向こうには、ロシア軍が集結していた。翌年2月24日、本格的な撮影に入って1週間がたった頃、ウクライナ侵攻が始まった。

ペンは残ることに決め、その後の約1年間でさらに数回、現地に足を運んだ。

ゼレンスキーに初めて話を聞く際、ペンはカメラを持ち込まないことにした。プレッシャーのない状況で自分を判断してもらいたい、という理由からだ。理解はできるが、不可解でもある。

同じ役者として、ゼレンスキーが既にペンに評価を下していたはずだ。ペンとのインタビューを、窮状をアピールする機会と捉えていたのも明らかだ。

ビジネス
「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野紗季子が明かす「愛されるブランド」の作り方
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

英BP、カストロール株式65%を投資会社に売却へ 

ワールド

アングル:トランプ大統領がグリーンランドを欲しがる

ワールド

モスクワで爆弾爆発、警官2人死亡 2日前のロ軍幹部

ビジネス

日経平均は4日ぶり小反落 クリスマス休暇で商い薄く
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中