最新記事
映画

伝説のスニーカーはナイキの決断と母の愛がつくった...映画『エア』が描くエア・ジョーダン誕生秘話

For the Love of Jordan

2023年6月16日(金)13時40分
リー・ハビーブ
映画『エア』

バスケ通のバッカロ(左)はジョーダンの母(右)にナイキを売り込む COURTESY OF AMAZON STUDIOS

<エア・ジョーダン誕生秘話『AIR/エア』は、ガッツと家族愛と資本主義の力を讃える快作>

映画『AIR/エア』の結末は、アメリカ人なら見なくても分かる(アマゾン・プライム・ビデオで配信中)。ナイキのスニーカー、エア・ジョーダンがスポーツの枠組みを超え、アメリカを象徴するブランドに成長するのだ。

【動画】映画『エア』予告編

とはいえランニングシューズを専門にしていたオレゴン州のスポーツ用品会社が、やがて史上最高のプロバスケットボール選手になる若者──マイケル・ジョーダン──との契約に至った道筋は、あまり知られていない。

『エア』の真のスターはマイケル・ジョーダンではなく、スポーツビジネスの歴史を変えた1人の男と1人の女だ。

男はナイキ社員のソニー・バッカロ(マット・デイモン)。メタボ体形の中年男だが、バスケットボールへの愛と知識は社内で誰にも負けず、まだNBAの試合に出たことさえないジョーダンを世紀の逸材と見抜く。

女はジョーダンの母デロリス(ビオラ・デービス)。エージェントでもマネジャーでもない彼女が、息子の契約交渉で最強の手腕を発揮する。

1984年、NBAドラフトの全体3位でシカゴ・ブルズへの入団を決めたジョーダンは、ナイキとスポンサー契約を結ぶどころか、話を聞こうともしなかった。第1希望はアディダスで、駄目ならマジック・ジョンソンらスター選手を抱えるコンバースがいいと考えていた。

それでもバッカロは諦めず、禁じ手まで使ってジョーダンを口説き落とそうとする。ジョーダンの代理人デービッド・フォークの許可も得ずに、ノースカロライナ州まで両親に会いに行くのだ。

最初に出会うのは、中流階級らしい質素な家の前で車の手入れをしている父ジェームズ。だが一家を取り仕切るのは母のデロリスだ。彼女が鉄の意志を持つ手ごわい交渉相手であることに、バッカロはすぐに気付く。デロリスにとって、わが子を慈しみ守ることは神が与えたもうた使命だ。

裏庭で2人が言葉を交わすシーンが素晴らしい。デロリスはバッカロに質問を浴びせて、人となりを探る。ソニーという名の由来を聞かれたバッカロは、母が出産時に付けてくれたと打ち明ける。

「お母様はご存命?」と尋ねたデロリスに、バッカロは答える。「亡くなりました。母は全力を尽くして僕らを育ててくれたと思います」

「人生を家族にささげるのは立派なことよ」と、デロリスは言う。「家族に与えて与えて、与え尽くして。何も残っていないのにまだ与える。家族にはその価値があるから」

ビジネス
「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野紗季子が明かす「愛されるブランド」の作り方
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米総合PMI、12月は半年ぶりの低水準 新規受注が

ワールド

バンス副大統領、激戦州で政策アピール 中間選挙控え

ワールド

欧州評議会、ウクライナ損害賠償へ新組織 創設案に3

ビジネス

米雇用、11月予想上回る+6.4万人 失業率は4年
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 8
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「日本中が人手不足」のウソ...産業界が人口減少を乗…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 8
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中