最新記事
映画

伝説のスニーカーはナイキの決断と母の愛がつくった...映画『エア』が描くエア・ジョーダン誕生秘話

For the Love of Jordan

2023年6月16日(金)13時40分
リー・ハビーブ

出番は少ないが、デロリスはこの映画の魂だ。『ウーマン・キング』で架空の女王を演じたデービスが、今回は実在の黒人女性を熱演。デロリスは人種差別や男社会への恨み言を一切口にせず、犠牲者の顔を決して見せない。

間もなくアディダスとコンバースがジョーダン親子の心をつかむのに失敗し、ナイキにチャンスが到来する。

バッカロ以下ジョーダン勧誘チームは、プレゼンの準備に取りかかる。1人の選手に履いてもらうための特別な1足をデザインしようと、寝る間も惜しんで奮闘する。スニーカーの名前は「エア・ジョーダン」だ。

プレゼンは大成功。今か今かと結果を待つバッカロに、デロリスが電話をかけてくる。契約したいが最後の条件があると、彼女は言う。

条件とは、契約金に加えて靴の収益の一部を支払うこと。収益をアスリートに分配する契約など前代未聞だとバッカロは抗議するが、デロリスは譲らない。

困ったバッカロは、ナイキの共同創業者でCEOのフィリップ・ナイト(監督も務めるベン・アフレックが演じる)に相談する。ナイトはしばし思案し、「やるべきだ」とゴーサインを出す。この瞬間、歴史がつくられる。

実にアメリカ的な物語

当初ナイキはエア・ジョーダンの売り上げを4年で300万ドルと見積もったが、85年の発売開始から1年で1億6200万ドルを売り上げた。過去5年で「ジョーダン」ブランドは190億ドルを稼ぎ出し、マイケル・ジョーダンの取り分は5%。靴の契約で、ここまで稼いだスポーツ選手はほかにいない。

デロリスが息子のためにフェアな契約を求めなければ、こうしたことは起きなかった。デロリスは資本主義を非難する代わりに、賢く利用した。あの運命の交渉で、どんなエージェントやマネジャーより大きな富を築いた。

成功の源はどこにあったのか。クリスチャン放送網(CBN)によれば、彼女は家族を最優先に考える姿勢と信仰のたまものだと語ったという。

『エア』には爆発シーンも特撮もない。あるのはバスケットボールというスポーツと同様、極めてアメリカらしいストーリーだけで、そこにたくさんのメッセージが詰まっている。リスクを冒すことの大切さ、ガッツ、勇気、そして資本主義の力。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:欧州で増加する学校の銃乱射事件、「米国特

ビジネス

豪サントス、アブダビ国営石油主導連合が買収提案 1

ワールド

韓国、第2次補正予算案を19日に閣議上程へ 景気支

ワールド

米の日鉄投資計画承認、日米の経済関係強化につながる
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 7
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中