最新記事
映画

「真のモンスター」は殺人AI人形ではなかった...ホラー映画『M3GAN/ミーガン』が見せたものとは?

Who's the Real Monster?

2023年6月8日(木)15時20分
サム・アダムズ(スレート誌映画担当)

「その場しのぎ」が役目

だが子供をあらゆるつらい出来事から守るのは不可能だし、望ましくもない。子供が事故に遭ったりいじめられたりするのは論外だが、時には干渉せずに「当然の結果」を理解させるのも大切だ。

何度止めても熱い鍋に触りたがる子供も、一度触れば懲りるだろう。愛犬は農場に引き取られて幸せにしていると言ってペットの死をごまかせば、「命あるものはいつか死ぬ」「たとえつらいことでも親は真実を話す」という2つの貴重な教訓を授ける機会を逃してしまう。

ロボットのミーガンに、その視点はない。そもそもミーガンは、解雇を恐れたジェマが慌ててケイディを巻き込み実地試験を開始した試作品で、完成には程遠い。

カウンセラーがケイディを喪失の悲しみと向き合わせようとすれば、ミーガンは少女が泣いたことだけに目を留め、カウンセラーに対して怒りを抱く。そして、そうしたミーガンの在り方がやがて惨劇を引き起こす。

ミーガンの役目は本当の意味での癒やしではなく、ケイディの気持ちを悲しみからそらすこと。ジェマが言うように、「ミーガンは何も解決してくれない。その場しのぎの気晴らしでしかない」のだ。

知識と知恵の違いを象徴

AIに倫理的な指導をしないまま学習能力を与え、ほかの命を全て犠牲にしてでも特定の対象を守れと命じたら? そんなテーマを追う『ミーガン』はAIの脅威に警鐘を鳴らすホラーに見えるが、話はもっと単純だ。

ミーガンは人並み外れた頭脳を持つスーパーロボットではない。ジェマの同僚のプログラマーが指摘するように、その返答はもっともらしい言葉の寄せ集めにすぎない。

ミーガンは子守歌が子供を落ち着かせることは知っているが、泣いている8歳の少女を慰めようとして、事もあろうに歌手シーアが激しくシャウトする曲「タイタニアム」を不気味なほど静かに歌いだす(「私を撃ちなさい/撃たれても私は倒れない。チタンみたいに強いから」)。

いわばミーガンは情報と知識、知識と知恵の違いの象徴なのだ。しかし本当の問題は機械ではなく、機械を使う人間にある。この映画の真のモンスターはケイディだろう。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

FRB理事候補ミラン氏、政権からの利下げ圧力を否定

ワールド

ウクライナ安全保証、26カ国が部隊派遣確約 米国の

ビジネス

米ISM非製造業指数、8月は52.0に上昇 雇用は

ビジネス

米新規失業保険申請、予想以上に増加 労働市場の軟化
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...地球への衝突確率は? 監視と対策は十分か?
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害」でも健康長寿な「100歳超えの人々」の秘密
  • 4
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 5
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 6
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 7
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 8
    世論が望まぬ「石破おろし」で盛り上がる自民党...次…
  • 9
    SNSで拡散されたトランプ死亡説、本人は完全否定する…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 10
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中