最新記事
映画

ドキュメンタリー映画『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』にひどく失望...マニアには物足りないし、若いファンには混乱の元

Making a Mess of a Goldmine

2023年3月15日(水)12時30分
カール・ウィルソン
デヴィッド・ボウイ

お宝映像や音源を基にボウイの人生をたどる遺族公認の『ムーンエイジ』 ©2022 STARMAN PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

<ロック界の伝説に迫る「体験型ドキュメンタリー」は音楽制作も素顔も掘り下げない見かけ倒しな残念作>

1980年代初期、10代の少年だった私はプラネタリウムで『ピンク・フロイド・レーザーショー』や『レッド・ツェッペリン・レーザーショー』を見た。ドームには星空ではなく、バンドの音楽に合わせてレーザー光線が踊るイベントだ。

けれども派手なスペクタクルにはすぐに飽きて、クラシックロックやプログレッシブロック全般を敬遠するようになった。これでロックの壮大さが体感できるというなら、そんなロックは大したことないと思ったのだ。

創造性の点で、当時のニューウエーブやパンク系アーティストのミュージックビデオははるか上を行っていた。そして彼らに強い影響を与えたのが70年代のデヴィッド・ボウイだったから、私にとって彼の名前は大事なマントラとなった。

2016年にボウイが死去してからファンになった若い世代を含め、大勢のはみ出し者やアート系オタクにとって、ボウイは過去50年余り、そんな存在であり続けた。

私がドキュメンタリー映画『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』にひどく失望したのは、そうした体験のせいもあるだろう。

【動画】これじゃボウイが浮かばれない...映画『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』の予告映像

目指したのは「遊園地」

監督のブレット・モーゲンは遺産管理団体から、ボウイが保管していた膨大な映像や音源や文書を委ねられた。そしてそのお宝を、事もあろうに派手なだけで空虚な『レーザー・ボウイ』に変えた。

監督自身がロサンゼルス・タイムズ紙で、『ピンク・フロイド・レーザーショー』とディズニーランドを何より参考にしたと語っている。「私は自分の作品をテーマパークと見なしている」とも述べた。

感覚的な刺激が最優先の『ムーンエイジ』には、文脈も時系列も重要人物の紹介もない。ナレーションが全てボウイのインタビュー音声なのはいい。ロック史きっての博識と雄弁を誇るスターに、そこらの識者の解説は無用だ。

一方で彼はたびたび発言やイデオロギーを翻したから、正しく解釈するにはその発言がいつのものなのかをはっきりさせる必要がある。

だがモーゲンは字幕で説明を加えることさえ嫌がった。ロサンゼルス・タイムズでも、「私は体験をクリエートしたかった。体験の対極にあるのが情報だ」とうそぶいた。

この姿勢は真実を軽んじるドナルド・トランプ前大統領の支持者を連想させるばかりか、ボウイに対して無礼だ。

ボウイは神秘のオーラをまとい、その言動は矛盾をはらんでいたが、土台には実体験と情報があった。アルバムにはどれも、発想の源となった芸術や文化や哲学を知るヒントがちりばめられていた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 5
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 8
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中