頭空っぽで楽しめるエンタメ映画はオスカーを取れるのか?──ノミネートだけでも栄誉の『トップガン』
Can Maverick Win?

『トップガン』が作品賞を獲得すれば製作のトム・クルーズも受賞者に PHOTO ILLUSTRATION BY SLATE. PHOTOS BY FRAZER HARRIOSNーGETTY IMAGES AND PARAMOUNT PICTURESーSLATE
<知的な映画が優遇される作品賞だが、スペクタクルの力を侮ってはいけない。娯楽に徹した『トップガン』にオスカーの栄冠を>
絶対不可能とされた任務を成し遂げて帰還したパイロットに戦友たちが駆け寄り、ハイタッチを交わす。ヒーローとなったパイロットは疲労のにじむ笑みを浮かべて親友と抱き合ってから、恋人の元へ。セクシーな彼女は愛車ポルシェの前で待っている──。
1月24日、『トップガン マーヴェリック』の製作陣も、そんなヒーロー気分に浸ったことだろう。
彼らは主人公のマーヴェリック(トム・クルーズ)ことピート・ミッチェルのように、ならず者国家のウラン濃縮施設を爆破したわけではない。だが、『トップガン』が目玉の作品賞を含む6部門でアカデミー賞にノミネートされたのだ。
この快挙に、収益の急落にあえぐハリウッド全体が沸いた。筆者も快哉を叫んだ。
語るに足らない俗な映画と考える人もいるだろう。血の気の多い愛国主義と生煮えのフェミニズムに鼻白む向きもあるだろう。1986年のオリジナルと同じく、カネのかかった米軍の宣伝映画だとの指摘も正しい。
だがとことん痛快なエンターテインメントとの見方に、異論は出ないはず。手に汗握るストーリー、美男美女ぞろいのキャスト、ド迫力の空中戦が詰まったこの映画を見てちっとも胸が高鳴らなかったという人に、私はお目にかかったことがない。
2009年にバットマンが原作の『ダークナイト』を作品賞にノミネートせず批判を浴びたことから、映画芸術科学アカデミーは同賞の枠を5本から10本に拡大。以来、幅広い作品を候補にしてきた。大作、伝記物、地味なインディーズ系、コメディー、メロドラマが常連で、最近は外国語作品もノミネートしている。
だが頭を空っぽにして楽しめるアクション超大作が作品賞の候補になることは、ほとんどない。アカデミーの会員は『ハクソー・リッジ』や『ダンケルク』など、戦争の恐怖を陰鬱に描くタイプのアクションが好みらしい。
『マッド・マックス 怒りのデス・ロード』が候補に挙がった16年以来、映画ファンは純粋な娯楽作のノミネートを待っていた。だから上質で知的で芸術的な作品賞候補の中にアカデミーが『トップガン』の居場所をつくってくれたのが、私はうれしい。