最新記事

BOOKS

タイパ重視の時代、「映画を早送りで観る」人を否定すべきではない

2022年5月27日(金)12時35分
印南敦史(作家、書評家)
スマホで視聴

oatawa-iStock.

<若者たちが「倍速視聴」や「10秒飛ばし」を行っていることは驚きだが、もはや不思議ではない。彼らの行動には、3つの背景がある>

特定のYouTubeチャンネルを飛ばし飛ばし、あるいは再生速度を早めに設定して観ることは、私にもある。

ただし、それはあくまでも「際立ったストーリー性があるわけではなく、無駄に長い」コンテンツの場合だ。

さすがに映画の場合は、たとえそれがシンプルなストーリーであったとしても、1.5倍速で観るような気にはなれない。なんとなく、申し訳ないような気がしてしまうからである。


 10秒間の沈黙シーンには、10秒間の沈黙という演出意図がある。そこで生じる気まずさ、緊張感、俳優の考えあぐねた表情、それら全部が、作り手の意図するものだ。そこには9秒でも11秒でもなく、10秒でなければならない必然性がある(と信じたい)。(「序章 大いなる違和感」より)

まったく同感だ。

しかし、『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形』(稲田豊史・著、光文社新書)を読む限り、それは前時代的な発想でもあるようだ。なにしろ「倍速にして、会話がないシーンや風景描写は飛ばしながら観る」という手段が、今や珍しいものではないというのである。

なぜ、そのようなことになっているのか。この点については、3つの背景があると著者は分析している。

まずは、作品数の多さだ。レンタルしなければ映画を観られないというのは昔の話。今やNetflixやAmazonプライム・ビデオなどの定額制動画配信サービスを利用すれば、月額数百円から千数百円であらゆるコンテンツを観ることができる。

それらに、テレビの地上波、BS、CSなどの放送メディア、YouTubeなどの無料動画配信メディアも加わるのだから、明らかに情報過多だ。

個人的にテレビは特定の番組しか観ないが、それでも"録画しっぱなし"の番組は雪だるま式に増え続けている。

動画配信サービスはNetflixとAmazonプライム・ビデオを利用しており、そちらはそちらで観ている途中のシリーズから今後観たいものまで多数。加えてYouTubeにも、毎回観ているコンテンツがある。

私はどちらかといえば「情報弱者」の部類だと思うのだが、そんな人間でもこの状態。だとすれば、若い世代が"コンテンツに追われる"ような状態になったとしても不思議ではないだろう。

それを解決してくれるのが倍速視聴だ。


 主に10~20代前半の若者の間で、倍速視聴は以前から当たり前だった。地上波ドラマを「忙しいし、友達の間の話題についていきたいだけなので、録画して倍速で観る」「内容さえわかればいいからざっと観て、細かいところはまとめサイトやWikipediaで補足する」。そんな感じだ。(「序章 大いなる違和感」より)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、円は日銀の見通し引き下げ受

ビジネス

アップル、1─3月業績は予想上回る iPhoneに

ビジネス

アマゾン第1四半期、クラウド事業の売上高伸びが予想

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任し国連大使に指
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中