聴覚障害者が主役の映画『コーダ』は歴史を作った...細かな違和感も吹き飛ばす偉業
CODA’s Complicated Oscar Win
障害の描写が現実的でないとか、少し感傷的すぎると思えても、筆者は本作を心から応援した。ろう者の俳優を多数起用した映画『サウンド・オブ・メタル~聞こえるということ~』や、リアリティーシリーズ『ろう者たちのキャンパスライフ』の場合と同じことだ。耳の聞こえない人が登場するリアリティー番組もあるべきだし、私自身の言語である手話や聴覚障害者をもっとスクリーンの上で見たい。
『コーダ』が、何よりもまず聴覚障害者が聴覚障害者の役を演じることによって、業界を正しい方向へ押し出したのは間違いない。画面上に字幕を(設定で選ばせずに)常に表示するという決断も、これまでにないものだ。耳の聞こえない役を演じる聴者の俳優の下手な手話ばかり見せられたり、映画館へ行ったのに、字幕表示用デバイスが充電されていないので出直してほしいと告げられる体験をしてきた身にとって、これは進歩だ。
アカデミー賞授賞式にしても、昨年まで車いす用スロープさえなかったことを思えば、今年は大きな前進だった。司会者の1人でコメディアン・女優のエイミー・シューマーが、お気に入りの作品は『コーダ』だとASLで語ったのを見て、私は叫び声を上げた。CM中、スナップチャットの広告に聴覚障害者が出てきたのを目にしたときは、走ってテレビの前に戻った。
次は35年間も待たせないで
アカデミー賞のYouTubeチャンネルでは、授賞式が最初から最後までASLの通訳付きで放送されたが、これも今回が初めてだ。評価できる試みだし、手話通訳者たちの仕事は素晴らしかった。だが、聴覚障害者が見るには複数のデバイスが必要になるという状況は「平等」とは言えない。この点は、多くの人が実は聴覚障害者の存在に気付きたがらないという現実を示している。
それでも、今は喜ぼうと思う。権利活動は喜びなしには持続できないから。
ろう者を中心とする物語が今後どんどん登場してほしい。性差や人種など、複数のアイデンティティーが組み合わさった聴覚障害者への差別のインターセクショナリティー(交差性)を捉えた物語や、聴覚障害が主な特徴ではない役を、耳の聞こえない俳優が演じる映画が増えてほしい。
業界で最も栄誉ある賞を手にし、出席者が手話の拍手でたたえるなか、コッツァーがASLでスピーチを行う姿を人々は目にした。この事実は、聴覚障害者の才能や価値を浮き彫りにするだろう。
『コーダ』の成功を生んだ耳の聞こえない人々は私の誇りだ。彼らが開けた扉が、大きく開いたままでありますように。そして次にろう者が受賞するまで、今度は35年間も待たずに済みますように......。
©2022 The Slate Group
CODA
『コーダ あいのうた』
監督╱シアン・ヘダー
主演╱エミリア・ジョーンズ、トロイ・コッツァー
日本公開中