最新記事

エンタメ

『SATC』も『ソプラノズ』も...超人気ドラマの「続編」はなぜイマイチなのか

The HBO Reboot Problem

2022年1月20日(木)18時07分
フィリップ・マチアク

『ザ・ソプラノズ』が面白かったのはマフィアの物語だったからではないし、『SATC』が面白かったのは4人の女性がマンハッタンでブランチを楽しむ話だったからではない。視聴者の心に響いたのは語り口が秀逸だったからだ。もちろん、懐かしいキャラクターとの再会はうれしいが、その興奮は長くは続かない。

『SATC』は革新的なヒロイン像が注目されがちだが、絶大な人気の秘密はドラマの構造にもあった。テレビ評論家のエミリー・ヌスバウムは2013年、『SATC』はともすれば軽薄だと見下されるが、その真の姿はセクシュアリティーや女らしさや愛を論じる哲学的ロマンチックコメディーだと書いた。

ブランチの場面は単なるつなぎではなく、ナレーションも添え物ではなかった。いずれも批判精神を発揮する舞台だった。シリーズが進みメロドラマ色が強くなっても、会話やナレーションに潜む批判精神は健在だった。

過去の栄光に頼る過ち

一方、『ザ・ソプラノズ』は逆の問題をはらんでいる。

『ザ・ソプラノズ』はテレビ番組であるからこそ偉大だった。99年から約8年間、地道に回を重ねて連続ドラマというものを辛抱強く作り替えていったから、あれだけの影響力を持てた。キャラクターを流用して2時間の青春映画を作るのは、そんな功績をないがしろにする行為だ。

視聴者を悪党どもに寄り添わせ、派手な暴力沙汰の裏に隠れた退屈で保守的で平凡な暮らしを見せつけた点も、新鮮だった。『ザ・ソプラノズ』はギャング物の常識を塗り替えたが、その前日譚はありきたりなギャング映画だ。

昨年12月、HBOが『シックス・フィート・アンダー』(01~05年)の再始動を計画していることが報じられると、抗議の嵐が起きた。1つには、この番組の最終回が金字塔とたたえられるほど見事だったからだ。ここまではっきり幕を引いてみせたドラマを復活させるのは茶番に近い。

とはいえ『新章』は大ヒットしているし、チェースは『ザ・ソプラノズ』関連で別のスピンオフを温めているという。HBOが昔のお宝をさらに掘り起こしても驚くには当たらない。

これ以上ゾンビを増やさないためには、死人をよみがえらせる企画に時間とカネを注ぎ込むのをやめるのが一番なのだが、見込みは薄い。

『マフィアたち』が公開されると、『ザ・ソプラノズ』は史上最高のドラマか否かを問う声が湧き上がった。こうした議論は何かの始まりではなく終わりを意味する。

テレビという媒体は今も黎明期にある。この手の議論や『新章』のようなリブートは創造の勢いをそぎ、テレビの未来を変えるかもしれない新しい作品からリソースを奪う。

過去の栄光にすがる者は革新のチャンスを逃す。『SATC』や『ザ・ソプラノズ』の傑作を送り出したHBOも、うかうかしてはいられない。

©2021 The Slate Group

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

再送-「安全の保証」巡り首脳レベルの協議望む=ウク

ビジネス

訂正米PCE価格、7月前年比+2.6% コアは5カ

ワールド

トランプ氏のFRB理事解任巡る審理開始、裁判所判断

ワールド

プーチン氏、トランプ氏欺くことに 露ウ会談約束しな
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界がうらやむ国」ノルウェーがハマった落とし穴
  • 4
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 5
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 6
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 9
    自らの力で「筋肉の扉」を開くために――「なかやまき…
  • 10
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 3
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 4
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 5
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 6
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 7
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 8
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 9
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 10
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中