最新記事

アメリカが愛する大谷翔平

人種も国籍も超えて熱狂を生む大谷翔平こそ、新時代のアメリカンヒーローだ

AN “ALL-AMERICAN” HERO

2021年11月19日(金)11時30分
グレン・カール(本誌コラムニスト)

オールスター戦前日のホームラン競争でファンの大声援を浴びる大谷。翌日の試合には投打の二刀流で先発し、勝利投手となった AARON ONTIVEROZーMEDIANEWS GROUPーTHE DENVER POST/GETTY IMAGES

<歴史を塗り替える二刀流というだけじゃない。大谷翔平のMVP獲得で、アメリカは「純真なヒーロー」を取り戻した>

大谷翔平を見ていると、私は10歳の頃に戻れる。ヒーローは実在すると信じていたあの頃に。

年齢を重ねれば、人は純真さを失うものだ。私はもう何十年も前に思い知った。本当のヒーローなどいるわけがない、無邪気な笑顔の裏には邪悪な意図が潜んでいるものだと。

だが、そこに大谷が現れた。彼は米大リーグ(MLB)の誰よりも速く走って盗塁を成功させ、特大のホームランを打ちまくり、時速160キロの剛速球で相手チームの強打者をねじ伏せる。いつも爽やかな笑顔で、少年少女のファンと気さくに言葉を交わす。こんなに純真なヒーローは見たことがない。球聖ベーブ・ルースだって、こんなではなかった。

私のようなベビーブーム世代は、ヒーローの存在を信じて育った最後の世代だ。当時はまだ、第2次大戦で世界を救った兵隊たちが生きていた。軍服を脱いで大統領に転身したドワイト・アイゼンハワーは「国民的おじいちゃん」だった。その後を継いだジョン・F・ケネディも格好よかったし、アメリカ人を月に連れていくと約束してくれた。

少年時代の私は素直に信じた。アメリカはどんな問題も解決できるのだと。子供の勝手な思い込みではない。国全体がそう信じていた。

それがどうだ。その後のアメリカはベトナムで戦争の泥沼に足を踏み入れた。公民権運動が盛んになり、各地で衝突が起きた。1970年代にはウォーターゲート事件が起き、国民はリチャード・ニクソン大統領が悪人であることに、そして政府が国民に嘘をついてきたことに気が付いた。

大好きな野球選手も嘘をつき、危険な薬物を使っていた。わが愛するボストン・レッドソックスの名投手ロジャー・クレメンスでさえ、筋肉増強剤を用いていたという。何度もサイ・ヤング賞を受賞したが、それも製薬業界のおかげだったか。ああ、世の中はアンチヒーローばかりだ。

そう嘆く日々が続いていたところに、大谷翔平が現れた。おかげで私たちは幼い頃の夢と感動を取り戻すことができた。60年前の栄光が戻ってきたのか?

米国内での報道も過熱している。大谷の活躍には誰もが雷に打たれたように驚き、目を丸くし、うっとりしている。こんな状況を、今まで私は見たことがない。

MLBの監督やスカウトも、まるで初めてプロの選手を見た野球少年のような言葉で大谷を称賛している。レッドソックスの監督アレックス・コーラは「彼の全てに圧倒される。彼は違う種類の生き物だ」と絶賛したし、所属するロサンゼルス・エンゼルスのジョー・マドン監督でさえ「次元が違う。ベーブ・ルース以来だ」と手放しで喜んでいる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、予想

ビジネス

米財務長官、FRBに利下げ求める

ビジネス

アングル:日銀、柔軟な政策対応の局面 米関税の不確

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中