最新記事

アメリカが愛する大谷翔平

人種も国籍も超えて熱狂を生む大谷翔平こそ、新時代のアメリカンヒーローだ

AN “ALL-AMERICAN” HERO

2021年11月19日(金)11時30分
グレン・カール(本誌コラムニスト)

選手たちも同じだ。大谷のチームメイトで強打者のマイク・トラウトは「こんなの見たことない。すご過ぎるし、人間としても素晴らしい」と評した。ニューヨーク・メッツのマーカス・ストローマン投手は大谷を「生きた神話的レジェンド」と呼び、ニューヨーク・ヤンキースの元投手C・C・サバシアは「自分の知る限り最高の野球選手」と絶賛してみせた。

野球担当の記者たちも、今シーズンの大谷は「史上最高」で「前代未聞、この活躍を再現できるのは大谷だけだ」などと書き立てている。

そんなスーパースターの大谷が、驚くほど謙虚で無欲に見えることにも感嘆の声が尽きない。彼はフィールドにごみを見つけたら、必ず拾う。折れたバットはバットボーイに手渡しする。バスで敵地へ移動する際には、人気ラテンポップ曲「デスパシート」をカラオケで歌う気さくな面もある。

211012P34_OTN_16.jpg

サインを求めるファンには丁寧に応対 JEFFREY BECKERーUSA TODAY SPORTSーREUTERS

大谷はいつだって礼儀正しく、誰にでも分け隔てなく接する。こうした美徳は、大谷を育てた日本社会の功績と言うべきかもしれない。アメリカ人が日本を訪れると、まず例外なく現地の人の礼儀正しさや慎み深さに感銘を受ける。そういう場所で育ったから、今の大谷がある。

言うまでもないが、MLBでは何十年も前から日本人の選手が活躍している。殿堂入り確実のイチローを筆頭に、松井秀喜や野茂英雄、そして私の好きな松坂大輔などだ。しかし彼らの時代と今とでは、アメリカ社会にも大きな違いがある。

イチローがシアトル・マリナーズに入団した2001年当時、アジア系アメリカ人の数は1200万人前後だった。イチローもその後継者たちも、その才能ゆえに球界ではスターになれたが、その国籍と人種ゆえにアメリカ社会の一員とは見なされなかった。しかし今、アジア系アメリカ人は約2300万人に達している。アジア系もアメリカ社会の立派な一員だ。

時代は変わった。今は白人の多くが、民族的・人種的な多様化の進行を脅威と感じている。ドナルド・トランプ前大統領の中国敵視や人種的偏見のせいで、アジア系アメリカ人に対するヘイトクライムが激増しているのも事実だ。しかし全体として見れば、みんな「アメリカン」という言葉の意味を広げようとしている。

7月13日のオールスター戦の前にはテレビの人気スポーツコメンテーターが、通訳を必要とする大谷にはMLBの「顔」となる資格がないと語った。これにはメディアもファンも猛反発した。国籍や人種で大谷の業績を評価するのは「アメリカンじゃない」、選手の評価は技量と実績、そして人柄だけで決めるべきだと。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=下落、経済指標受け 半導体関連が軟調

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、一時150円台 米経済堅調

ビジネス

再送-アマゾン、第3四半期売上高見通しが予想上回る

ビジネス

アップル、4─6月期業績が予想上回る iPhone
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから送られてきた「悪夢の光景」に女性戦慄 「這いずり回る姿に衝撃...」
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 4
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 5
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 6
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 7
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 8
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 9
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 10
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中