最新記事

インタビュー

六代目神田伯山が松之丞時代に語る 「二ツ目でメディアに出たのは意外と悪くなかった」

2020年2月13日(木)17時25分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

2019年1月、〈あうるすぽっと〉で行われた『慶安太平記』完全通し公演の2日目。『秦式部』『戸村丹三郎』『宇都谷峠』の3席を読む。 写真・橘 蓮二(『Pen BOOKS 1冊まるごと、松之丞改め六代目神田伯山』より)

<テレビやラジオでも活躍する講談界の風雲児、神田松之丞が2月11日、六代目神田伯山を襲名した。なぜ彼はこれほどまでに注目を集めるのか――。2018年8月に行われたロング・インタビューより>

神田松之丞から、六代目神田伯山へ――。2020年2月11日、人気・実力を兼ね備え、講談界を飛び出してテレビやラジオでも活躍してきた神田松之丞が真打に昇進した。

2019年12月2日に行われた真打昇進襲名披露に向けた記者会見では、会見場にテレビカメラがずらりと並んだ。2020年2月9日には披露パーティも開かれ、講談界や落語界、芸能界から約380人が出席して祝った。2020年2月11日、真打昇進襲名披露興行の大初日、寄席の新宿末廣亭には多くの客が駆け付け、満員札止となった。なぜ彼はこれほどまでに注目を集めるのか。
penbooks20200212kanda-booktop.jpg
1983年、東京都豊島区に生まれた六代目神田伯山は、2007年に講談師の神田松鯉(しょうり)に入門。2012年に二ツ目に昇進し、たちまち頭角を現した。今では講談界随一、いや講談界の歴史においても異例とも言えるほどの人気を誇り、八面六臂の活躍を続けている。

六代目神田伯山の松之丞時代に密着したムック『Pen + 1冊まるごと、神田松之丞』(CCCメディアハウス)が刊行されたのが、2018年10月。このたび、その『Pen +』をベースに、新たに記事を加え再編集した書籍『Pen BOOKS 1冊まるごと、松之丞改め六代目神田伯山』(ペンブックス編集部・編、CCCメディアハウス)が刊行される(2月15日発売)。

ここでは『Pen BOOKS 1冊まるごと、松之丞改め六代目神田伯山』から一部を抜粋し、3回に分けて掲載する。第1回は、2018年8月に行われた松之丞時代のロング・インタビューの一部を掲載。

●抜粋第2回:松之丞改め六代目神田伯山の活躍まで、講談は消滅寸前だった
●抜粋第3回:爆笑問題・太田光が語る六代目神田伯山「いずれ人間国宝に」「若い子も感動していた」

◇ ◇ ◇

インタビュー&文・九龍ジョー

テレビやラジオの出演も増え、想像以上のスピードとスケールで突き進む講談界の風雲児が、現在の状況と未来の展望を語る。

――私が初めて松之丞さんの高座を見たのは三年前の深夜寄席でした。その時からこの人は人気出るだろうと思っていましたが、ここまでのスピードとスケールは予想していなかったです。

松之丞 いや、自分でも想像以上に速いと思っていますよ。やっぱり時代なんでしょうかね。

――その速度感も含めて、松之丞さんだけ違うルールで動いているように見える時があるんです。特にテレビやラジオに出演している時の振る舞いなどを見ていると。

松之丞 それで言うと、何よりもまず、食い扶持(ぶち)として講談がありますからね。それ以外のことは基本的にいつやめたってかまわない、というスタンスなんですよ。色々なテレビの芸人なんかも、昔はそういう感じだったと思うんです。でも、どんなに失うものがなさそうな人でも、徐々に背負うものができてくるじゃないですか。番組や他の出演者、スタッフのことも考えなければならないし。そこへいくと、僕はしょせんピン芸なので、守るべきものが師匠(神田松鯉=しょうり)と講談しかない。しかも、メディアに出ていたという意味では以前に(神田)山陽(さんよう)兄さんがいましたけど、それでもやはり、いまだに講談は視聴者にとって少し斜め上のジャンルなんですよね。歌舞伎でもないし、落語でもない。そういうよくわからないものをしょってるやつが何かルールから逸脱するような動きをしたとしても、きっと批判しづらいんでしょう。

自分の理想の講談師像を、ずっと追求している。

――不思議な立ち位置だと思うんです。松之丞さんの年齢でこれだけメディアで注目されれば、収入的にも、キャリアプラン的にも、タレント業が主戦場になったっておかしくないわけじゃないですか。

松之丞 でも、そこでの僕の強さは、本丸として講談があり、メディアに出るのは「宣伝のため」とわりきっているからこそなんですよ。ただ、ラジオ(『神田松之丞 問わず語りの松之丞』)に関してだけは、もともと僕自身、ラジオリスナーだったので、こだわりがありました。いまのラジオ番組ってコンプライアンスとか自主規制で縛られている状況がすごく滑稽に見えたんですよね。「いや、俺だったら、もっとこういうラジオが聴きたいな」っていう。......でも、それを言ったら、まあ講談も同じか。「こういうラジオが聴きたい」っていうのと同じように、「こういう講談師を見てみたい」っていう理想が僕の中にあるんです。

――芸事の場合、修行期間中はあまり売り出さずに芸を磨く、という美学があったりしますよね。また、本人にとってもそのほうが幸せな場合もある。

松之丞 欽ちゃん理論にもありますよね。「つまらないってレッテルを一度貼られてしまうとあとがきついから、実力蓄えてから出なさいよ」って。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

EUの「ドローンの壁」構想、欧州全域に拡大へ=関係

ビジネス

ロシアの石油輸出収入、9月も減少 無人機攻撃で処理

ワールド

イスラエル軍がガザで発砲、少なくとも6人死亡

ビジネス

日銀、ETFの売却開始へ信託銀を公募 11月に入札
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃をめぐる大論争に発展
  • 4
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 8
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 9
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 10
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中