最新記事

私たちが日本の●●を好きな理由【韓国人編】

「短歌は好きのレベルを超えている」韓国人の歌人カン・ハンナは言った

2020年2月11日(火)18時05分
朴順梨(ライター)

歌集『まだまだです』に収められた〈韓国と日本どっちが好きですか聞きくるあなたが好きだと答える〉 MAKOTO ISHIDA FOR NEWSWEEK JAPAN

<韓国で天気キャスターなどをしていたが2011年に来日。日本語で短歌をたしなみ、歌集『まだまだです』を出版した。タレント、歌人、学者の顔も持つカン・ハンナに聞いた短歌、日本、日韓のこと。本誌「私たちが日本の●●を好きな理由【韓国人編】」特集より>

テレビ画面の端に映る小さなワイプ画面の中で、カン・ハンナ(38歳)は涙をぬぐっていた。メイン画面では別の場所にいるスピードワゴンの2人と小島よしおが話していたが、彼らがおかしかったからではない。彼女の初めての歌集『まだまだです』(KADOKAWA)の発売を祝う言葉に心を打たれていたのだ。
20200211issue_cover200.jpg
歌人でタレントのハンナは現在、NHKのEテレで放送中の『NHK短歌』にレギュラー出演している。2019年12月1日の放送で、そんなシーンがあった。

日本語で短歌をたしなみ、歌集まで出版した彼女はソウル出身の韓国人だ。韓国で天気キャスターなどをしていたが、30歳を迎える頃、人生に悩んでいたという。

それまで南米など各地を旅行していたが、なぜか日本に来ると自分らしく過ごせる気がする。そこで日本で暮らしてみようと決意し、飛行機に飛び乗った。

折しもタイミングは2011年2月。短歌はおろか、日本語もほとんど話せなかった彼女は、来日してすぐ東日本大震災に直面した。

「何が起きているのかよく分からず、周りの友人はみんな帰国してしまったけれど、私は逆に日本にいたい気持ちになった。『帰ってこないと娘として認めない』と母に言われたけれど、悲しみに暮れている人がいる場所から去ることに納得できない思いがあった」

このまま帰ってしまったら、他者の悲しみを理解できない人間になってしまうのではないか。そう感じた彼女は、異国で独り暮らす孤独を選択した。

以来約3カ月間、寝る間も惜しんで日本語を独学し、芸能事務所に所属するかたわら大学院進学を目指した。そして2015年に横浜国立大学大学院に入学し、現在は博士課程で日韓関係を研究している。
magSR20200211korean-kanghannah-2.jpg
短歌と出合ったのは2014年だ。NHKのオーディションがきっかけだった。以前に新海誠監督のアニメ映画『言の葉の庭』を見て、そのテーマとなっていた万葉集については知っていた。「31文字の持つ力ってすごいな」と思ってはいたが、まさか自分が短歌を詠むとは想像もしなかった。

「でもマネージャーに『短歌って知ってる? オーディション受けてみない?』と言われたときに、なぜか『来た!』と思った」と笑って振り返る。

オーディションでは短歌を書く課題もあり、彼女は100首も詠んだという。「いま考えると、5・7・5・7・7に言葉を当てはめただけのもの。それでも合格できたのは、可能性を見てもらえたからかもしれない」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午後3時のドルは147円半ばへ下落、日銀現状維持に

ワールド

高市氏が総裁選公約、対日投資を厳格化 外国人への対

ワールド

カナダとメキシコ、貿易協定強化で結束強化の考え

ワールド

米、ワシントンの犯罪取り締まりで逮捕者らの給付金不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 9
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 10
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中