最新記事

私たちが日本の●●を好きな理由【韓国人編】

ソウルで日本人客をおもてなし 「小川剛(長渕剛+小川英二)」の語った原点

2020年2月5日(水)17時55分
朴順梨(ライター)

HARRY CHUN FOR NEWSWEEK JAPAN

<ソウルに「剛の家」というゲストハウスがある。なぜ「剛」なのか。なぜバスやトイレなど、日本人の習慣に合わせているのか。本誌「私たちが日本の●●を好きな理由【韓国人編】」特集より>

「男性数人で泊まったときは、他の宿泊客がいなかったからリビングで寝そべって宴会をしていた。ここに来ると日本語で話せるから友達の家にいる気分になれる」
20200211issue_cover200.jpg
島根県在住の丸石博は、居間でくつろぎながら「もう何回泊まったか分からない」と笑う。「ここ」とはソウル駅近くにあるゲストハウス「剛の家」のこと。オーナーの名は小川剛。しかしそれはニックネームで、本名は金喜雄(キム・ヒウン、56歳)という韓国人だ。

「長渕剛の剛と、長渕がドラマ『とんぼ』などで演じた役名の小川英二にちなんで、小川剛と名乗ることにした」

金と日本語との出合いは小学生時代にさかのぼる。父がある日、絵本をプレゼントしてくれた。イラストに日本語の単語が添えられたもので、気に入って繰り返し読んでいたという。しかしこの頃はまだ、日本語に触れている意識はなかった。

その後、本格的に学びたいと思ったのは高校生のとき。観光名所の景福宮の前でたびたび、日本人観光客を案内するツアーガイドを目にした。

「スーツを着こなしていてかっこよかったので、自分もなりたいと思った」

母親の体調が思わしくなかったことから、大学在学中に兵役に行き、除隊してすぐに公務員試験を受けて刑務官になった。母の治療費もカバーできる手厚い医療保険制度があったからだ。

magSR200205korean-kimheeung-2.jpg

日本人客のためにソウルの地図を作製している HARRY CHUN FOR NEWSWEEK JAPAN

しかし、日本人に韓国を紹介したい気持ちは変わらず、偶然知り合った日本人男性から贈られた『とんぼ』や『傷まみれの青春』のCDを聴いて好きになった長渕剛の曲やドラマで、日本語を学び続けたという。

いつしか友人たちから「剛」と呼ばれるようになった金は、退職して2000年にゲストハウスを始める。家のように過ごしてほしいという思いから「剛の家」と名付けた。

金が日本に興味を持った理由は、ガイドのスーツ姿と長渕剛だけではない。趣味のオーディオやカメラ、バイクに優れた日本製品があったことも大きい。

magSR200205korean-kimheeung-3.jpg

趣味のオーディオやバイクに優れた日本製品が多いことも日本に興味を持った理由 HARRY CHUN FOR NEWSWEEK JAPAN

「例えばバイクは、走った後に思いもよらない部分が故障していることがある。欧米製だと部品も手に入れにくいが、日本製は韓国と規格が同じものが多いし、何より丁寧に作られていて信頼できる」

剛の家にはソニーやサンヨーなどのアンティークのラジカセや、日本人宿泊客から贈られた土産品が並んでいる。韓国のゲストハウスには通常はないバスタブがあるのも、トイレでトイレットペーパーが流せる(ゲストハウスでは珍しい)のも、日本人の習慣に合わせるためだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

エプスタイン文書、米司法省が30日以内に公開へ

ワールド

ロシア、米国との接触継続 ウクライナ巡る新たな進展

ビジネス

FRB、明確な反対意見ある中で利下げ決定=10月F

ビジネス

米労働省、10月雇用統計発表取りやめ 11月分は1
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、完成した「信じられない」大失敗ヘアにSNS爆笑
  • 4
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 5
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 6
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 7
    衛星画像が捉えた中国の「侵攻部隊」
  • 8
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 9
    ホワイトカラー志望への偏りが人手不足をより深刻化…
  • 10
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 7
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中