最新記事

技術

犬用義足を着けて4本脚で走れ!

脚を大けがしたら切断するだけだったが、新しい素材やテクノロジーを駆使した動物用義肢がペット治療の常識を変えつつある

2016年1月7日(木)15時12分
スチュアート・ミラー

着け心地は? 子犬だったときに凍傷ですべての脚を失い、廃屋で発見された犬も、義足のおかげで走り回れるまでになった(本文中の義肢・装具会社のものとは別) Rick Wilking-REUTERS

 9月のある日、アニマルレスキューのチームに救出されたジャーマンシェパードのノアが運ばれてきたとき、VERGI動物救急病院(ヒューストン)のセーラ・デューハースト獣医師は「身の毛がよだった」と言う。

 飼い主の虐待と放棄の結果、右前足の毛皮と肉球がなくなり、骨と化膿した組織が剝き出しになっていた。「肩から切断するしかないと思った」。脚に重傷を負った犬の標準的な治療法だ。

 しかしそのとき、同僚からビル・ビックリーの取り組みを教えられた。ビックリーがヒューストンに設立したペット・アーティフィシャル・リムズ・アンド・サポーツ社(PALS)では、動物のための義肢・装具を作っているというのだ。

 動物用の義肢・装具は、21世紀に入って生まれた新しい分野。10年余り人間用の義肢・装具を作ってきたビックリーが動物用義肢・装具の存在を知ったのは、わずか3年前だ。

 動物用義肢・装具にはまだ改善の余地があると、ビックリーは感じた。ほとんどの場合、「弾むことや自然な動きをすることができないので、大きな負担が掛かっていた」のだ。

 研究の末、彼はカーボンファイバー(炭素繊維)を使うことを思い付いた。頑丈で柔軟性に優れたカーボンファイバーは、下肢切断者の陸上競技用義足で使用される素材だ。

 カーボンファイバーの入手には苦労した。最初に電話した5社には、「笑いものにされたり、もっと大きな業者としか取引しないと言われたりした」と言う。

 それでも、デボテック社が協力してくれることになった。オリンピック競技で用いるボブスレーや軍用機、さらにはランボルギーニの自動車などに素材を提供してきた企業だ。「私は犬を3頭飼っていて、動物が好きなんだ」と、創業者のハンス・デボットは振り返る。

 ビックリーとデボットは試作を繰り返し、やがてあるアイデアに到達した。犬の体の大きさに応じて義足の接地部分の反発力を変えるべきだと気付いたのだ。また、後肢の義足は上部を比較的硬くし、下部には柔軟性を持たせるようにした。さらに、着地の衝撃を和らげるためにシリコンゲルで「足」も作った。

寿命を左右する場合も

 2人だけではない。動物用義肢・装具作りの関係者たちは、それぞれの方法で改良に取り組んでいる。ファイバーグラスで脚の型を取り、それをスキャンしてデジタルの3Dモデルを作るのは、この分野の先駆者であるマーティンとエイミーのカウフマン夫妻だ。3Dモデルに基づいて機械で発泡体素材を切り出し、その後それをプラスチックで真空成形する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英インフレ率目標の維持、労働市場の緩みが鍵=ハスケ

ワールド

ガザ病院敷地内から数百人の遺体、国連当局者「恐怖を

ワールド

ウクライナ、海外在住男性への領事サービス停止 徴兵

ワールド

スパイ容疑で極右政党議員スタッフ逮捕 独検察 中国
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバイを襲った大洪水の爪痕

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    冥王星の地表にある「巨大なハート」...科学者を悩ま…

  • 9

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 7

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中