最新記事

映画

犬たちの怒涛の反乱にぶちのめされる『ホワイト・ゴッド』

ジャンルの垣根を超えた話題作が日本初上陸のコーネル・ムンドルッツォ監督に聞く

2015年11月20日(金)17時20分
大橋 希(本誌記者)

野生の目覚め ハーゲン率いる犬たちが街を駆け抜け、リリと出会う光景は圧巻だ 2014©Proton Cinema, Pola Pandora, Chimney

 舞台は、雑種犬にだけ重税を課すという法律が施行されたある都市。主人公は、周囲にうまく馴染めない13歳の少女。そして250匹の犬たちが起こす反乱――。サスペンスであり、ドラマであり、ダークファンタジーともいえる異色作『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲』(ハンガリー、ドイツ、スウェーデン合作)が日本公開される(21日から全国ロードショー)。
 
 両親が離婚し、学校で所属するオーケストラでは問題児扱いされ、どこにも居場所がなく孤独なリリ(ジョーフィア・プショッタ)にとって唯一の心のよりどころは愛犬のハーゲン。だがある日、威圧的な父親に反抗したせいでハーゲンを捨てられてしまう。リリは必死に探し回るが見つからず、その間にもハーゲンは野犬狩りに遭遇し、裏社会の闘犬へと駆り出され、やがて仲間とともに人間に復讐しようとする。

 昨年のカンヌ国際映画祭では「ある視点」部門グランプリと、パルムドッグ賞(最も優れた演技をした犬に贈られる非公式の賞)をW受賞している。監督としてのキャリアは比較的長いが、日本公開は本作が初めてというハンガリーのコーネル・ムンドルッツォ監督に話を聞いた。


――タイトルの「ホワイト・ゴッド(White God)」は何を意味しているのか。

 南アフリカ出身の作家J・M・クッツェーの『恥辱』という作品から思い付いたものだ。彼はその中で、「ホワイト・ゴッド」を白人のこととして描いている。世界を植民地化し、支配する人間として表現されていて、それがすごく面白く感じられた。この映画の内容と直接関係がないと思われるかもしれないが、深いところではつながっているのではないか。

 もう1つには、犬の視点がある。犬にとって人間は神のようなもの。犬は人間を、人間が自分自身を愛しているよりも愛しているかもしれない、ということが書かれている。

 クッツェーはまた、人間はどう生きるのかということに自ら責任を持てるはずだとも言っている。人は寛容にも不寛容にも、人間らしくも非人間的にもなれるものだ、と。それもインスピレーションになった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米金利先物、9月利下げ確率60%に小幅上昇 PCE

ビジネス

ドル34年ぶり157円台へ上昇、日銀の現状維持や米

ワールド

米中外相会談、ロシア支援に米懸念表明 マイナス要因

ビジネス

米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比+2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中