最新記事

BOOKS

アメリカ次期大統領候補の「おばあちゃん」としての顔

力強い政治家のイメージを打ち出した新著『困難な選択』で、ヒラリーがほんの少しだけ見せた素顔の意味

2015年7月17日(金)16時45分
印南敦史(書評家、ライター)

『困難な選択』(ヒラリー・ロダム・クリントン著、日本経済新聞社訳、日本経済新聞出版社)は、2009年から2013年まで米国務長官を務めたヒラリー・ロダム・クリントンによる自伝である。上下2巻で、それぞれ約500ページというボリュームなので、そうそう簡単に読破できるものではない。正直なところ、読むと決めてからの精神的な重みは相当なものであった。

 とはいえ、社会活動家、弁護士、ファーストレディ、上院議員と積み上げられてきたキャリアを振り返っているのだから、これだけの文字量はどうしても必要だったと考えるべきなのかもしれない。

 当然ながらタイトルの「困難な選択」が意味するところは、2008年の大統領選予備選に負けた彼女が、ライバルであったバラク・オバマから国務長官就任を要請された一件である。そのことについては第1部「再出発」に描かれているので、本質的な部分はここに凝縮されているといっても過言ではない。


私はすでに彼の支援要請に応じることを決意していた。ただ、ここ一年に起きた不愉快な出来事についても触れざるをえなかった。(中略)この点について、バラクは彼自身だけでなく、彼の陣営も含め、そうした非難を信じたことはないときっぱりと断言した。(中略)この率直な話し合いによって、私は彼を支持しようという思いを新たにした。(上巻20~21ページより)


 ここにも表れているが、本書の特徴のひとつは、ヒラリーの人間性をそのまま反映させたかのような筆致である。起こったこと、感じたことがきわめて冷静に、客観的につづられており、そこに女性であることを過度に意識させるような飾りは存在しないのだ。だから、意地の悪い表現を用いるなら、かわいらしさのようなものとは無縁だ(もっとも、本書にかわいらしさを求める人もいないだろうが)。

 そして、それが政治家としての底力を感じさせもする。力強いのだ。だから、その強固な意思と姿勢は、そのまま2016年の大統領選への期待感につながっていく。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日本の国債管理政策、マーケットとの対話は世界一緊密

ビジネス

午前の日経平均は反落、米ハイテク株安を嫌気 TOP

ワールド

中国、岩崎茂元統合幕僚長に制裁 ビザ制限・資産凍結

ワールド

原油先物は反発、米・ベネズエラ緊張化による供給途絶
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 5
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中