最新記事

映画

『英国王のスピーチ』史実に異議あり!【前編】

アカデミー賞受賞の呼び声が高い歴史大作は、英王室とチャーチルを無批判に美化する作り物だ

2011年2月24日(木)18時18分
クリストファー・ヒッチェンズ

ファンタジー? 英国王を演じたコリン・ファースは主演男優賞候補だが(2月26日公開) © 2010 See-Saw Films. All rights reserved.

 映画『英国王のスピーチ』は、吃音に悩むジョージ6世(エリザベス女王の父)が、風変わりな言語療法士と二人三脚で障害を克服する、実話に基づく物語。すでに多くの映画賞に輝いており、アカデミー賞作品賞の最有力候補との呼び声も高い。
 
 だが私の評価は違う。私は1月下旬、この作品について「史実を捻じ曲げたファンタジーだ」という趣旨の辛口批評を書いた(他にも批判的な記事を書いた記者が1〜2人いた)。それ以来、プライドを傷つけられた関係者から、ご丁寧な反応が続々と寄せられている。

 ハリウッドの映画記者もこぞって私にメールや電話を寄こし、敏腕プロデューサーのハーベイ・ワインスタインが、自身の最新作にケチをつける奴は賞レースのライバル『ソーシャル・ネットワーク』の製作陣とグルになっているに違いないと触れ回っている、と教えてくれた。

 事実だとは思えないが、自分がワインスタインを怯えさせるほどの批評を書いたのだと思うと、元気が沸いてきたのは確かだ。

父王の安楽死がカットされた真意

 だが、ことはこれで終わりではなかった。映画の脚本を手掛けたデービッド・サイドラーが先日、ニュースサイト、ハフィントン・ポストの取材に応じ、私の記事を含む映画への「中傷合戦」に対して怒りに満ちた反論を展開したのだ。
 
 ワインスタイン陣営はどうやら長い間、被害妄想を育んできたようだ。彼らは、ほとんど止むことのない称賛の嵐だけでは飽き足らず、全員一致の大絶賛を受けなければ満足しない。君主制に魅了され、その安っぽい華やかさにあやかろうとするから、こんなことになるのだ。

 私の批評に関して、サイドラーは特に2つの点を問題にした。1つ目は、チャーチル英首相が次男のアルバート王子(後のジョージ6世)ではなく、長男のデービッド王子(後のエドワード8世)を支持していたことをサイドラーが知らなかったと、私が批判したことだという。

 だが、私はそんなことは書いていない。私が批判したのは、チャーチルがデービッド王子を支持していたという史実をサイドラーが意図的に省略し、あたかもアルバート王子に忠誠を誓っていたかのように強くほのめかした点だ。

 サイドラーは今になって、親ナチスのデービッド王子をチャーチルが支持するシーンが当初は存在したが、「ぱっとしなかった」ため編集段階でカットしたと語っている。それならなぜ、もっと「ぱっとする」映像を撮り直し、映画のストーリーよりはるかに興味深い真実を描かなかったのだろう。
 
 父王のジョージ5世を安楽死させるという王室医師団の決断もカットした、とサイドラーは告白している(国王死亡の発表のタイミングが超保守的な英タイムズ紙に有利に働くよう計算しながら、モルヒネとコカインの注射による安楽死が行われた)。

 こうした興味深いディテールも、ぱっとしなかったからカットされたのだろうか。それとも、安楽死の事実やチャーチルの真の姿を正確に描写してしまうと、イギリス王室とチャーチルを無批判に崇拝するという至上命題を守れなくなると考えたのだろうか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:トランプ政権、気候変動の「人為的要因」削除 

ビジネス

アングル:機内WiFiは必需品か、マスク氏とライア

ワールド

〔情報BOX〕-次期FRB議長指名のウォーシュ氏、

ビジネス

次期FRB議長にウォーシュ氏指名、トランプ氏「利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 2
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵士供給に悩むロシアが行う「外道行為」の実態
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    日本はすでに世界第4位の移民受け入れ国...実は開放…
  • 5
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパ…
  • 6
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投…
  • 7
    日本経済を中国市場から切り離すべきなのか
  • 8
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 9
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 10
    「外国人価格」で日本社会が失うもの──インバウンド…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 5
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 6
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 7
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 8
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 9
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中