最新記事

シネマ

さらばCG、映画は人間だ

2010年8月2日(月)15時12分
ジェレミー・マッカーター

 しかし同じく08年の『アイアンマン』の場合、ロバート・ダウニーJr.は見事に成功している。彼の突き放したような演技は、大作の仮面をかぶりながら徹底したバカバカしさで楽しませるタイプの映画にぴったりだった。

 今年5月に全米公開された『アイアンマン2』でも、ダウニーは自意識過剰なヒーロー、トニー・スタークをにこりともせずに演じて笑わせた。ダウニーは才能豊かな俳優だ。女たらしの主人公が、心臓に埋め込んだ生命維持装置が実は自分の命を奪おうとしていると気付いて苦しむくだりでは、私もちょっと心を揺さぶられた。

 とはいえ、前作のようにダウニーがのびのびと演じる余地はない。ジョン・ファブロー監督が夏の大作に求められる刺激の強いアクションと爆発シーンに力を入れたため、ダウニーの人間的な等身大の魅力はだいぶ損なわれた。

著名劇作家がフィニッシュ

 5月の全米公開前に最も期待を集めたのは『ロビン・フッド』だろう(日本公開は12月の予定)。あのラッセル・クロウが弓矢と棍棒でフランス軍に立ち向かうと聞けば、それだけでドキドキする。しかし製作側は脚本を重視して、劇作家のトム・ストッパードにセリフの監修を依頼したという。

 ストッパードは『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』などの高尚でユーモラスな作品で知られる書き手。彼の手によるセリフが娯楽大作で聞けるというのは、ちょっぴり知性を刺激してくれる事件だ。

 ストッパードらしさが感じられるのは、例えばクロウと共演のケイト・ブランシェットの言葉遊びに満ちた会話。巨体のリトル・ジョンが、リトルと呼ばれる理由は「これでバランスが取れるってものさ」と言う場面もそうだ。

 マックス・フォン・シドー演じる老人が、「朝立ちをした」と言う場面もある。ここでは娯楽作品ではめったに聞かれない難解な単語が使われるが、それもストッパードのアイデアだろう。

 しかし、言葉の魅力だけでは夏のアクション大作の条件を満たせない。残酷なシーンも必要だ。

 ロビンは故郷のノッティンガムを守って愛する女性と結ばれるだけでなく、イングランドの運命も決しなければならない。だが、彼が勝利を収めるまでには3時間近くかかり、もう観客はぐったりだ(夏の大作は大抵こういうところでボロを出す)。

 『アイアンマン』のジャンルを超越したウイットや『ダークナイト』のジョーカーのカリスマ性を示せないまま、『ロビン・フッド』はお決まりの派手な爆発や突撃シーンを経てクライマックスの戦いへと突き進む。それって、あまりに見慣れた光景だ。     

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

高市首相、応援演説で円安メリットに言及 米関税のバ

ワールド

米政府機関の一部が閉鎖、短期間の公算 予算案の下院

ビジネス

中国1月製造業PMIが50割れ、非製造業は22年1

ワールド

トランプ氏、労働統計局長にベテランエコノミスト指名
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 2
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵士供給に悩むロシアが行う「外道行為」の実態
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    日本はすでに世界第4位の移民受け入れ国...実は開放…
  • 5
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパ…
  • 6
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投…
  • 7
    日本経済を中国市場から切り離すべきなのか
  • 8
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 9
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 10
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 5
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 6
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 7
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 8
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中