たった13坪で1300冊を売る町の書店──元シンクロ日本代表と恩師・井村雅代コーチの物語
Jure Divich -shutterstock-
<離婚、パニック障害、自傷行為──人生の暗闇に沈んだ元シンクロ日本代表が、1冊の本と出会い、小さな書店で再び「生きる力」を取り戻す>
大阪市中央区に「売り上げ冊数・日本一」の記録をいくつも持つ小さな書店がある。隆祥館書店は1949年創業、「まちの本屋さん」として親しまれている。
本が売れなくなり、書店が減っていく時代に、どうやって本を売っているのか。2代目店主・二村知子さんにフリーライターの川内イオさんが取材した──。

一冊の小説を1300冊売る書店
大阪市の長堀通り沿い、地下鉄の谷町六丁目駅前にある隆祥館書店は、わずか13坪の小さな町の本屋さんだ。この店の店主、二村知子さんは、この店だけで小説『満天のゴール』(藤岡陽子著)を約1300冊売った。全国の書店で、この小説の売り上げ冊数は日本一。
それだけではない。ノンフィクション作家、佐々涼子さんの『エンド・オブ・ライフ』は600冊超、同じくノンフィクションの『典獄と934人のメロス』(坂本敏夫著)は約800冊を販売した。もちろん、どちらも日本一の冊数だ。二村さんが日本で一番売った本は、ほかに何冊もある。
「感動した本に出会うとね、体のなかからマグマが湧いてくるみたいにぶわーってなって。これは伝えなあかんって思うんですよ」
小柄な身体の内側で渦巻くマグマに衝き動かされてきた二村さん。彼女が「死にたい」と願うほど人生のどん底にあった時、救ってくれたのが本と隆祥館書店のお客さんだった。

日本シンクロ界のレジェンドのもとで
二村さんは1960年、隆祥館書店を営む父母の長女として生まれた。1949年に隆祥館書店を創業した父の善明さんは争いを好まない穏やかな人で、お客さんが来れば閉店の間際でも招き入れ、1時間でも、2時間でも話し込んだ。
二村家と隆祥館書店を描いた書籍『13坪の本屋の奇跡 「闘い、そしてつながる」隆祥館書店の70年』(木村元彦著)によると、善明さんは「河出書房の全集を大阪で最も売った書店員」。善明さんは「本を読むことで地域の人たちのリテラシーが高まる」「本を商業主義の餌食にするな」という志を持って書店を創業したと同書に書かれている。
母の尚子さんは「商才があるタイプ」(二村さん)で、書店の経理など経営面を担った。店を法人化した時の代表に就いたのも、尚子さんだ。
お客さんへの対応や本にかける愛情、商売として本を売る実力を見ると、両親の遺伝子が二村さんにしっかりと受け継がれたことがわかるだろう。しかし、その遺伝子が覚醒するのはもう少し後のこと。
本に囲まれて育った二村さんだが、夢中になったのは中学校1年生の時に水泳教室「浜寺水練学校」で始めたシンクロナイズドスイミングだった(現在のアーティスティックスイミング。ここではシンクロと記す)。
「友だちのお姉さんが、シンクロしてはって。その友だちから一緒にやろうって言われて始めました」
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