最新記事
コメ不足

コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治家・農水省・JA農協の歪んだ関係

2025年4月10日(木)14時28分
山下 一仁 (キヤノングローバル戦略研究所研究主幹) *PRESIDENT Onlineからの転載

コメ農家は価格高騰に困惑している

肥料等が高騰する中で、農家が今回の高米価でやっと一息ついているという報道がある。

これはウソである。赤字だったのは1ヘクタール以下の零細農家だ。この規模の農家は肥料が高騰する以前から何十年も赤字で米作を続けてきた。

これらの零細な農家は戸数ではコメ農家の52%を占めるが、水田面積ではわずか8%のシェアしかない。

数が多いので、取材しようとするとこれらの農家に当たってしまうが、これらはもはやコメ農業を代表するような存在ではない。


逆に、コメ農業を担っている農家らしい農家、主業農家は高米価に戸惑っている。米価上昇で輸出が困難となる一方で、高関税を払ってまで外米が輸入されるようになり、彼らにとっての国内外のコメ市場が縮小してしまう懸念があるからだ。

実際、今年1月だけで昨年1年間分の368トンを上回る523トンの外国米が輸入される事態となっている。

高米価はJA農協のため

米価が下がっても、欧米のように財政から直接支払いすれば、農家の所得は確保できる。これがOECDをはじめ、世界中の経済学者が支持する農業政策である。農家にとっては、高い価格でも直接支払いでも、収入には変わらない。

なぜ、日本の農政は価格、特に高い米価に固執するのか? それは欧米にはない “特殊な組織” があるからである。

それはJA農協だ。

JA農協は、肥料で8割、農薬や機械で6割のシェアを持っている。このような巨大な独占企業が、独禁法の適用除外を受け、農家に独占的な高価格を押し付けている。そもそも農協は農家が肥料等を安く購入するために作られた組織だった。

しかし、肥料価格が高くなると農協の手数料も高くなる。農家の中でも零細な農家は、言われるままに高い資材価格を農協に払っている。JA農協は農家の利益ではなく自己の利益のために活動しているのだ。とっくの昔にJA農協は農家のための協同組合ではなくなっている。

米価が高くなれば、JA農協の販売手数料も増える。しかし、高米価で得るJA農協の利益は、その程度のものではない。

農業は衰退しているのに、JA農協は日本有数のメガバンクとなり、日本最高・最大級の機関投資家に発展した。このことに高米価・減反政策と関係しているのである。

実は、私も農林水産省にいるときは、このカラクリに気が付かなかった。退職して農業・農政を全体的に見るようになって、やっとわかったことである。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

英住宅ローン融資、3月は4年ぶり大幅増 優遇税制の

ビジネス

LSEG、第1四半期収益は予想上回る 市場部門が好

ワールド

鉱物資源協定、ウクライナは米支援に国富削るとメドベ

ワールド

米、中国に関税交渉を打診 国営メディア報道
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中