最新記事
宇宙開発

台湾ロケット打ち上げが試金石...日本の「宇宙ハブ」構想

2024年7月30日(火)21時48分

外交上の懸念

しかし、TiSpaceの打ち上げを巡っては、日本国内から中国との関係を懸念する声も出ている。同社の共同創業者の1人である呉宗信氏は退社後、台湾の国家宇宙センターのトップを務めている。ロケットの打ち上げと弾道ミサイルの発射は技術的に共通するものが多く、台湾企業が日本から打ち上げようとすれば、中国が監視を強める可能性がある。


 

TiSpaceは、同社は民間企業で台湾政府から資金援助を受けていないと説明。陳会長はロイターへのメールで、現時点で地政学的な懸念は耳にしていないとした。

日本の宇宙政策を統括する内閣府はロイターの取材に、「法令にのっとっている範囲内においては、我が国では自由な経済活動や研究活動が保証されている」と回答した。一般論だと断った上で中立的な立場を強調した形だが、内閣府の宇宙政策委員会委員を務める東京大学の鈴木一人教授は、日本から台湾のロケットを打ち上げる計画をビジネスの観点だけで語るのはリスクだと指摘する。「外交的配慮は絶対に必要」と話す。

中国外務省はロイターの取材に、TiSpaceの打ち上げについて「関連状況を把握していない」と述べた。

宇宙港は世界的に競争激化

内閣府によると、22年に軌道上に打ち上げられた人工衛星は世界で2368機。10年間で11倍に増加した。ロケット打ち上げ事業を手掛ける米スペースXが価格破壊をもたらした影響が大きく、低軌道に投入する商業衛星の輸送需要は今後さらに増える見込みだ。

日本には鹿児島県に種子島宇宙センターと内之浦宇宙空間観測所があるが、いずれも国の基幹ロケット専用の打ち上げ施設だ。民間は大樹町以外に和歌山県、さらに大分県、沖縄県で宇宙港構想が進んでいるが、打ち上げ実績については、インターステラテクノロジズが2019年に日本の民間企業として初めて宇宙へのロケット打ち上げに成功した大樹町が先行している。

打ち上げ需要が増える一方、宇宙港を巡る競争は激化している。ボストンコンサルティンググループのアレッシオ・ボヌッチ氏は、世界では50以上の宇宙港が建設されつつあるが「真に成功し、長期的に自立できるのはおそらく5から10カ所だろう」と語る。

宇宙政策に詳しい大阪大学の渡辺浩崇・招へい教授は、政治外交上いっそうの困難を伴う台湾のTiSpaceが海外ロケット打ち上げの先例になれるかどうかが、アジアの宇宙輸送ハブを目指す日本にとって「良い試金石になる」と話す。

(小宮貫太郎 取材協力:村上さくら、李宜穆 編集:久保信博)



[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2024トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 教養としてのBL入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月23日号(12月16日発売)は「教養としてのBL入門」特集。実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気の歴史と背景をひもとく/日米「男同士の愛」比較/権力と戦う中華BL/まずは入門10作品

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

EU、自動車業界の圧力でエンジン車禁止を緩和へ

ビジネス

午前の日経平均は続落、米雇用統計前の警戒ムード 一

ビジネス

経済同友会の代表幹事に山口・日本IBM社長、新浪氏

ワールド

台湾総統、財政関連法改正に反対 野党主導の議会と溝
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 7
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 8
    「職場での閲覧には注意」一糸まとわぬ姿で鼠蹊部(…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中