最新記事
日本経済

歴史的な円安の背景にある「キャリーモンスター」とは?

2024年6月27日(木)17時53分
円紙幣

6月27日、外為市場で金利差収入を狙った円売りが改めて存在感を増している。写真は円紙幣。昨年3月撮影(2024年 ロイター/Dado Ruvic)

外為市場で金利差収入を狙った円売りが改めて存在感を増している。短期売買を繰り返し値ざやを狙う投機筋のようにドルの上値を追いかけることはないが、下値ではすかさず買いを入れてくるスタンスで、円を歴史的な安値に押し下げる陰の主役となっている。その影響力から一部で「キャリー・モンスター(キャリー取引の怪物)」とも呼ばれており、将来の金利の方向性だけではなく、現在の水準に着目している点が特徴だ。


 

上がっても下がらないドル/円

年初来、主要通貨間で最も買われているのは米ドルだ。根強いインフレや足元景気の堅調ぶりが、年前半から市場の利下げ観測を後ずれさせ続けており、現在も米金利先物市場が織り込む9月の利下げ確率は5割強にとどまり、据え置きの可能性も依然4割近く残している。

高金利に支えられたドル高地合いが、円を安値圏へ押し下げる一因となっているのは間違いない。だが、主要通貨の騰落率を月ごとに見ると、ほぼ同調していたドル高と円安の関係性はここ数カ月で次第に崩れており、ドルの強弱とは関係なく、円が大きく売られる場面が増えている。

その理由のひとつと目されているのが、低金利の円を調達して高金利のドルなどで運用するキャリートレードの増勢だ。日銀がマイナス金利政策の解除後も緩和的な金融政策の継続を強調するにつれ、日米なら5%を超える大きな金利差を収入源とするキャリートレードが「世界的にも有数の魅力的な投資戦略」(外銀アナリスト)となったためだ。

バークレイズ証券で為替債券調査部長を務める門田真一郎氏のもとには、国内外の投資家から、キャリー投資戦略に関する問い合わせが数多く寄せられている。

「最近のドル安局面ではユーロやポンドが買われても、ドル/円はキャリートレーダーの買いで下げが持続しない。高値圏で推移しているうちに再びドル高局面が来ると、上値を試す動きとなりやすい」ことが、ドル/円を押し上げているという。

バリュー投資家をなぎ倒す

「はっきりした理由は見当たらないのだが、、」。最近の外為市場でよく聞かれる言葉のひとつだ。特段の手掛かりがない中、取引量が大きく膨らむこともなく、静かに円がじり安となっている場面で、困惑とともに使われることが多い。

米経済指標の下振れなどといったドル売り材料が出ても、あるいは米国債金利の低下や日本の国債金利上昇で日米金利差が縮小しても、ドル/円は下げ渋り、時には緩やかながら上昇する。この円売りの根強さや神出鬼没ぶりは、市場で「キャリーモンスター」(ソシエテ・ジェネラルのキット・ジャックス氏)とも揶揄されている。

「金利差がここまで拡大すると、今後の方向性より現在の格差そのものが重要だと指摘する顧客もいる。(円の割安感で投資する)バリュー投資家は、キャリートレーダーに追いやられてしまっているようだ」(同)という。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米加州の2035年ガソリン車廃止計画、下院が環境当

ワールド

国連、資金難で大規模改革を検討 効率化へ機関統合な

ワールド

2回目の関税交渉「具体的に議論」、次回は5月中旬以

ビジネス

日経平均は続伸で寄り付く、米国の株高とハイテク好決
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 10
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中