最新記事
無理ゲー

指示出しても「聞いてませんでした」...伝達ミスはコマンドの出し方を変えれば「攻略」できる

2024年6月4日(火)11時55分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部


 
現場に伝達すべきことを、「これ、現場に落としといて」と表現することがあります。ピラミッド型の組織において、上(経営者)から下(現場)に情報を下すというイメージなのでしょう。

しかし、情報というのは重力に従って木からリンゴが地面に落ちるように、自然と下りていくわけではありません。 何度も何度も「これでもか」というほど伝えて、ようやく浸透するかしないかというものです。

では、どうすれば「伝わる情報伝達」ができるのでしょうか。

メラビアンの法則を説明する図版



1971年に、アルバート・メラビアンという心理学者が提唱した法則があります。人間同士のコミュニケーションにおいて、「言語情報が7%、聴覚情報が38%、視覚情報が55%の割合で相手に影響を与える」という心理学上の法則で、「メラビアンの法則」と呼ばれています。つまり、情報伝達率以前の問題で、言語だけで物事を伝えることに、そもそもの無理があるということです。
  
もう一つ、われわれのクライアントである、とある高級飲食店の事例を紹介します。そのお店では、外国人スタッフに向けて、お客様へお水を提供する際、どうすれば丁寧な印象を与えられるかということについて、熱心に指導をしていました。

当初、「丁寧に置きましょう」という言葉だけで説明していたところ、数週間が経過しても状況は変わらず、動作が乱雑なままでした。丁寧さの基準や価値観は人によって異なりますし、どの程度の丁寧さを求められるのかまでは、言葉だけではなかなか表現できません。

このため、われわれが下掲のように動画で解説したところ、即座に全スタッフが理解し、動作が変わったのです。


動画では丁寧な動作と乱雑な動作の比較をスローモーションで見せ、「小指を先にテーブルにつける」「グラスを置いてから一秒後に指を離す」などポイントをはっきり言語化して伝えています。
  
さらにこれを、「パターンAとパターンB 、どちらの置き方のほうがより丁寧に感じますか?」とクイズ形式にしてスタッフたちに解答させるのも効果的でしょう。それによってスタッフたちは「AとBは何が違うんだろう」としっかり見比べ、より能動的にその動画から学び取ろうとするためです。
  
「○○してください」と口頭での指示だけでは、聞いた側も理解した気になるだけで、行動が変わらない、行動に移さないということが多々あります。時には動画や画像などの視覚情報を活用したり、クイズなどの能動性を引き出す仕掛けで記憶定着を促すことが重要です。


※第3回はこちら:「とりあえずやってみる」は絶対NG...幹部や先輩からの「的外れ」アドバイスの正しい対処法


中谷一郎
大学卒業後、ベンチャー・リンク社を経て2010年にトリノ・ガーデンを設立。サービス業を中心に、建設、小売、メーカーなど幅広い業界における大企業の収益・生産性改善を、「オペレーション分析」を通じて実現してきた。その手法の特徴は、徹底的に現場の様子を「可視化し計測し記録する」こと。近著に『オペレーション科学』(柴田書店)がある。


newsweekjp_20240527061905.jpg

中間管理職無理ゲー完全攻略法
 中谷一郎[著]
 CCCメディアハウス[刊]

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

ニューズウィーク日本版 教養としてのBL入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月23日号(12月16日発売)は「教養としてのBL入門」特集。実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気の歴史と背景をひもとく/日米「男同士の愛」比較/権力と戦う中華BL/まずは入門10作品

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英小売売上高、11月は前月比0.1%減 予算案控え

ワールド

中国、米国防権限法の対中条項に強い不満 実施見送り

ビジネス

英財政赤字、11月は市場予想以上の規模に

ビジネス

ニデック、永守氏が19日付で代表取締役を辞任 名誉
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 6
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 7
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 10
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中