最新記事
マイクロファイナンス

途上国ビジネスとODAが果たす役割とは? 「民間版の世界銀行」を目指す五常・アンド・カンパニーの挑戦

2024年3月11日(月)11時30分
※JICAトピックスより転載

小豆澤 五常の事業展開のスピードがとても速いことが印象的です。しっかりと事業を成長させながらも、顧客に寄り添う姿勢は私たちが出資した当初から変わっておらず、顧客や投資家の信頼獲得につながっていると感じます。五常は事業成長を通じて途上国にいる多くの人々に金融包摂を届けてきました。

 グループ会社全体の顧客数は現在200万人に達しました。私たちが事業を展開するうえで大事にしているのは、「顧客はどのような人々で、どのような金融サービスを求めてるのか」を深く知ることです。例えばJICAと協力して行ったカンボジアでのフィナンシャル・ダイアリー調査もその一つです。低所得者層の家庭を対象に家計簿をつけてもらい、家計の収支状況を詳細に把握し、マイクロファイナンス事業のインパクトを測定しています。

現場から顧客のニーズを丁寧に拾い、提供するサービスにつなげる。そのサイクルが成長の鍵


小豆澤 フィナンシャル・ダイアリー調査を通じて家計簿をつけることはその家庭の金融リテラシーの向上というさらなるインパクトも生みだしています。2023年度の五常のインパクトレポート※でも紹介されているこの調査を通じて、顧客にどのようなニーズがあって、どんなサービスを提供すれば金融包摂が実現されるのかを細かく把握し、それをもとにさらに良いサービスの提供を短いサイクルで繰り返すことで、五常が事業を成長させてきていることがわかります。

※五常・アンド・カンパニー 2023年度インパクトレポート

その一方で、インパクトレポートには、マイクロファイナンスを活用することで、低所得者層の所得が向上しないこともある、という事実も記載されていました。金融包摂に向けた取り組みが一筋縄ではいかない現実を突きつけています。

jica_gojo2.jpg

「ODAが途上国の役に立っていないのでは」と指摘されることもあると述べる小豆澤部長。開発課題は簡単に解決できない、効果が出るまで時間がかかるという現実があるからこそ、民間企業を含むさまざまなパートナーと一緒に立ち向かっていきたいと言う

 マイクロクレジットについて、顧客が事業投資以外の用途に使用する場合、あまりインパクトを生み出していないという事実は、実はこれまで事業者側からはあまり公表されてきませんでした。だからこそ、このレポートは、実情を示しているという点で海外のマイクロファイナンス投資ファンドからも高く評価されています。不都合な真実に目を背けることなく向き合い、それでも自分たちの理想を信じることが大切だと考えています。

jica_gojo3.jpg

創業のきっかけは、「民間型の世界銀行をつくりたい」という強い思いだ。自分たちで現地にグループ会社を保有し、直接、現地の人々に金融サービスを届ける。現在、グループ全体の社員数は約9,400名に上る

小豆澤 難しい課題や困難がある中でも歩みを止めない──その思いは一緒です。その克服には、やはり現場のニーズを丁寧に拾い上げることが不可欠です。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場・午前=S&P・ナスダックが日中最高値

ビジネス

米アルファベット、時価総額が初の3兆ドル突破

ワールド

トランプ氏、四半期企業決算見直し要請 SECに半年

ワールド

米中閣僚協議、TikTok巡り枠組み合意 首脳が1
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 8
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中