最新記事

メディア

FOX会長退任のマードック、ニュース帝国の皇帝が残したものとは?

2023年9月27日(水)12時30分
ジャスティン・ピーターズ(ジャーナリスト)
メディア王 マードックは主流文化に代わる選択肢を提供して帝国を築いた

メディア王 マードックは主流文化に代わる選択肢を提供して帝国を築いた PHOTO ILLUSTRATION BY SLATE. PHOTO BY JUSTIN SULLIVAN/GETTY IMAGESーSLATE

<ニュース帝国の皇帝が引退へ政治も動かした実力者の消えゆく「遺産」>

FOXコーポレーションとニューズ・コーポレーションの会長を11月に退任すると発表したメディア王、ルパート・マードック(92)の経歴を要約するのは簡単だ。過去50年、マードックは恐怖と分断に根差した反動的なポピュリズムを説くメディアで何十億ドルと稼いだ。彼のメディアは視聴者の隠れた残酷さに迎合し、おぞましい本能を正当化した。そして、マードック個人の利益を増やす一方で、現実から目をそらす悪質な文化的保守主義を作り出し、複数の国家の政治を変貌させた。

過去の多くのメディア王や現代の大富豪の企業家たちと同様、マードックは何よりも自分の富と影響力を守るやり方で権力を振るった。

所有するイギリスのタブロイド紙は、王室や上流階級の人々を恐怖に陥れ、同時にマードックの影響力が彼らと同等であることを示した。マーガレット・サッチャーとは持ちつ持たれつの関係で、サッチャーが自由市場主義と保守主義を維持したのと引き換えに、マードックはイギリスの新聞業界を独占していった。

マードック傘下のニューヨーク・ポスト紙は、街が危険で衰退しているというストーリーを広めた。その販売戦略は、犯罪に厳格な市長を選ぶよう有権者を説得するのに役立ち、就任したルドルフ・ジュリアーニ市長もマードックに気に入られることの重要性を十分認識していた。

マードックの代名詞であるFOXニュースは、いかに多くのアメリカ人がジャーナリズムに無関心かを一貫して示してきた。1996年の開局以降、視聴率を常にリードしてきただけでなく、保守派のスターを生み出し共和党の選挙に重要な役割を担ってきた。

トランプイズムを生む

マードックは、市場で満たされていない層を探し、主流文化の堅苦しさに代わる選択肢を大衆に提供することで帝国を築いた。米3大ネットワークの覇権に挑んだFOXは、他社と異なる3つの番組で最初の成功を収めた。下品なファミリーシットコム『子連れ結婚』、貧困層に対する中産階級の嫌悪感を前面に押し出したリアリティー番組の元祖『コップ』、そして、アニメ『ザ・シンプソンズ』だ。

歴史や正当性、過去の成功に縛られないFOXは、CBSやNBC、ABCとは全く違った。共和党内に影響力を持つロジャー・エールズにFOXニュースを創業させると、マードックはすぐに超保守的で未開拓の視聴者が多く存在することに気が付いた。


ニュース帝国の皇帝が引退へ政治も動かした実力者の消えゆく「遺産」FOXが2016年に成し遂げたこと、つまり、自分たちのイメージだけでつくられた空っぽの愚かな人物が大統領に選出されたことは、マードックのキャリアの頂点だったのかもしれない。

三菱UFJフィナンシャル・グループ
幅広いニーズに応える新NISAの活用提案──MUFGが果たす社会的使命
今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EU、AI利用の包括規制案で暫定合意 違反企業に罰

ワールド

アングル:「出稼ぎ」パレスチナ人、失業16万人も 

ビジネス

アングル:自動運転車は安全か、タクシー事故契機に米

ワールド

ガザ停戦決議案を否決、国連安保理 米が拒否権行使、
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イスラエルの過信
特集:イスラエルの過信
2023年12月12日号(12/ 5発売)

ハイテク兵器が「ローテク」ハマスには無力だった ── その事実がアメリカと西側に突き付ける教訓

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    シェア伸ばすJT、新デバイス「Ploom X ADVANCED」発売で加熱式たばこ三国志にさらなる変化が!?

  • 2

    「みっともない!」 中東を訪問したプーチンとドイツ大統領...2人の「扱い」の差が大き過ぎると話題に

  • 3

    ハマスの地下トンネルに海水を注入する作戦、イスラエルは本当に決行するか

  • 4

    英ニュースキャスター、「絶対に映ってはいけない」…

  • 5

    下半身ほとんど「丸出し」でダンス...米歌手の「不謹…

  • 6

    「傑作」「曲もいい」素っ裸でごみ収集する『ラ・ラ…

  • 7

    「相手の思いに寄り添う」という創業者の思いへの原…

  • 8

    イスラエルの上にヒズボラの大型ロケット弾「ブルカ…

  • 9

    ロシアの大規模ドローン攻撃からウクライナの空を守…

  • 10

    相手の発言中に上の空、話し方も...プーチン大統領、…

  • 1

    完全コピーされた、キャサリン妃の「かなり挑発的なドレス」への賛否

  • 2

    シェア伸ばすJT、新デバイス「Ploom X ADVANCED」発売で加熱式たばこ三国志にさらなる変化が!?

  • 3

    下半身ほとんど「丸出し」でダンス...米歌手の「不謹慎すぎる」ビデオ撮影に教会を提供した司祭がクビに

  • 4

    ロシアはウクライナ侵攻で旅客機76機を失った──「不…

  • 5

    反プーチンのロシア人義勇軍が、アウディーイウカで…

  • 6

    下半身が「丸見え」...これで合ってるの? セレブ花…

  • 7

    「ダイアナ妃ファッション」をコピーするように言わ…

  • 8

    上半身はスリムな体型を強調し、下半身はぶかぶかジ…

  • 9

    最新の「四角い潜水艦」で中国がインド太平洋の覇者…

  • 10

    周庭(アグネス・チョウ)の無事を喜ぶ資格など私た…

  • 1

    <動画>裸の男が何人も...戦闘拒否して脱がされ、「穴」に放り込まれたロシア兵たち

  • 2

    <動画>ウクライナ軍がHIMARSでロシアの多連装ロケットシステムを爆砕する瞬間

  • 3

    戦闘動画がハリウッドを超えた?早朝のアウディーイウカに攻め込んだロシア軍、悲劇の叙事詩

  • 4

    <動画>ロシア攻撃ヘリKa-52が自軍装甲車MT-LBを破…

  • 5

    ロシアはウクライナ侵攻で旅客機76機を失った──「不…

  • 6

    ここまで効果的...ロシアが誇る黒海艦隊の揚陸艦を撃…

  • 7

    リフォーム中のTikToker、壁紙を剥がしたら「隠し扉…

  • 8

    最新の「四角い潜水艦」で中国がインド太平洋の覇者…

  • 9

    またやられてる!ロシアの見かけ倒し主力戦車T-90Mの…

  • 10

    また撃破!ウクライナにとってロシア黒海艦隊が最重…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中