最新記事
経済

日本は不況の前例ではなく「経済成長の手本」。中国が「日本と違う」これだけの理由

NOT "JAPANIFYING"

2023年9月27日(水)18時40分
練乙錚(リアン・イーゼン、経済学者)
習近平

福建省寧徳地区の党委員会書記だった頃の習(1989年) XINHUA/AFLO

<日本は「失われた」数十年を経験したが、実はその間も成長を続けてきた。今、中国の停滞を日本と比較する識者が多いが......>

※本誌2023年10月3日号は「日本化する中国経済」特集。失速する中国経済を検証しています。

中国経済の不調を伝えるニュースが続くなか、多くの識者は中国が1980年代後半から日本を悩ませてきたのと同じ「好況・停滞・低迷」の道をたどっているとみている。

だが、ノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマンの見方は違う。「日本は警戒すべき前例ではなく、手本と言っていい」と彼は主張する。

日本は1991年以降、「失われた」数十年を送ったが、その間も労働年齢人口の1人当たり実質GDPはアメリカとほぼ同じペースで推移し、45%の成長を遂げた。深刻な高齢化に直面し、人口が2008年をピークに減少に転じた先進経済にとっては容易なことではない。

日本の事例で評価すべきなのは、2014年以降は若い世代も含めた労働者のほぼ完全雇用を維持しながら、この成長を達成したことだ。世界最大の債務国でありながら財政が比較的安定し、デモや暴動などの社会不安がほとんどないことも注目に値する。

「経路依存性」、中国はさらに悪い状態に

一方の中国は、職探しをしていないため統計に表れないケースを含めると、若者の失業率が50%近くに達しているともみられる。しかも超成長期でさえ、年間数万件のデモや暴動が発生していた。中国が日本に似ているとは言えないだろう。

だが日本との比較がほとんど役に立たないなら、国際社会が中国に提案している強力な刺激策や個人消費の促進といった対処法は、あまり意味を成さないことになる。

そもそも中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は、国民の消費増を望んでいない。消費行動への補助金を嫌っていることで知られる習は、先日も若者に「苦労は買ってでもしろ」と促した。

2008年の世界金融危機の後、中国は4兆元という世界最大規模の刺激策で成長を一時的に安定させたが、後に再び減速した。しかもその後に残されたのは、浪費と汚職が蔓延する経済と多額の債務だった。

「経路依存性」という社会科学の言葉がある。人や組織は過去の経緯や歴史に縛られがちだ(つまり「歴史がものをいう」)という意味だが、そう考えれば中国はさらに悪い状態に陥るだろう。

なぜか。

2008年の刺激策では中国政府が補助金や投資、融資をハイペースで提供し、国民がそれを奪い合うような騒ぎが全国に広まった。中国の国民はその後10年、苦労せずに多額の資金を手にすることばかり考える「パラサイト(寄生虫)」と化した。

刺激策が国民を甘やかした結果は、投資効率の低下としてデータに表れている。今の中国では、同じ生産高を生み出すのに必要な投資額が20年前の約2倍に達している。

刺激策が「パラサイト」を生んだ一方、資本はその効力を失っているのだ。

ガジェット
仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、モバイルバッテリーがビジネスパーソンに最適な理由
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

現状判断DI前月比0.4ポイント低下の48.7=1

ビジネス

中国銅輸入量、11月は2カ月連続減 価格高騰で

ワールド

ドイツ外相、訪中へ レアアース・鉄鋼問題を協議

ワールド

ミャンマー経済に回復の兆し、来年度3%成長へ 世銀
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中