最新記事

エネルギー

原油急落の影にUAEの「鶴の一声」 存在感誇示の影に対米不信も

2022年3月14日(月)10時14分
バイデン米大統領

アラブ首長国連邦(UAE)は今週、「鶴の一声」で原油価格を1日に13%も押し下げて市場に影響力を誇示したばかりでなく、米政府に長期的な同盟相手であるUAEの存在価値の大きさを改めて印象付けることに成功した。写真はバイデン米大統領。ワシントンで9日撮影(2022年 ロイター/Jonathan Ernst)

アラブ首長国連邦(UAE)は先週、「鶴の一声」で原油価格を1日に13%も押し下げて市場に影響力を誇示したばかりでなく、米政府に長期的な同盟相手であるUAEの存在価値の大きさを改めて印象付けることに成功した。

石油輸出国機構(OPEC)最有力加盟国のUAEとサウジアラビアは、ともに米国に幾つかの「わだかまり」を持っている。ロシアのウクライナ侵攻後、世界的な景気後退をもたらしかねない水準に達した原油の高騰を抑えるため、増産してほしいという米政府の要請をこれまで袖にしてきたのもそれが原因だ。

ところが、9日にUAEの駐米大使が増産支持を表明すると、原油は急反落して1日として約2年ぶりの下げを記録した。

その後、UAEのエネルギー相が、UAEはOPECと非加盟産油国でつくる「OPECプラス」の合意を守ると駐米大使と正反対の内容の発言をすると、原油価格は再び上昇。こうした矛盾した情報発信について、ガルフ・リサーチ・センターのサグル会長は「意図的だった」と述べ、米政府向けに「われわれはお互いを必要としている。だから懸案を解決しようではないか」というメッセージを送ったのだと解説した。

サグル氏の見立てでは、米政府はロシアのウクライナ侵攻計画にずっと前から警鐘を鳴らしていた以上、ペルシャ湾岸の産油国に対して実際に危機が起きてから働き掛けるのではなく、事前に十分な根回しをしておくべきだったという。

同氏は「湾岸諸国はロシアと多年にわたって良好な関係を築いてきたので、簡単に手のひらを返すことはできない」と話す。

米国としては、ウクライナ危機を巡って湾岸諸国に西側と同一歩調を取ってもらいたい考えがある。だが、米政府はサウジとUAEの懸念事項にこれまで十分な配慮をしてこなかったつけで、政治的な支持を得にくくなってしまった。彼らの懸念とは、宗派や地域覇権の面で対立するイランの核開発、イエメンに拠点を置く親イラン勢力からの攻撃や、米国からの武器売却にさまざまな条件が付けられていることなどだ。

募る対米不信感

サウジのムハンマド皇太子は、米情報機関の報告書で反体制記者殺害への関与が示唆されている。もちろん本人は否定しているが、バイデン米大統領からこの点を理由に事実上の国家指導者として待遇するのを拒絶され、激怒している。

ある関係者は「米国と湾岸諸国の間には、幅広い対応と解決が求められる多くの問題がある」と指摘し、まずは信頼関係の再構築が必要で、それはロシアやウクライナ危機とは関係ないと付け加えた。

この関係者も、米政府はロシアのウクライナ侵攻前に手を打つべきだったとの見方だ。「バイデン政権は諸情勢が危機へと向かっていることを知っていた。同盟国との関係をしっかり固めて、あらかじめ足並みをそろえるよう調整を図ってしかるべきで、湾岸諸国が言うなりに原油価格を制御してくれると単に期待してはならなかった」という。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生きる力」が生んだ「現代医学の奇跡」とは?
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    メーガン妃の「下品なダンス」炎上で「王室イメージ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中