最新記事

話し方

誰とでも心地の良い「良質な会話」ができる、テクニックより大事な「意識」とは

2022年3月24日(木)17時15分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

ポッドキャストのゲストと一対一で対話するとき、私はそれを「二重奏」なのだと想像するのが好きだ。そして、その想像の中で私は、ジム・ホール役になる。ジャズギタリストのジム・ホールは、進行役の私にとって理想的なロールモデルだ。

彼は自分のエゴを前面に押し出すことなく、相手のミュージシャンが持っているものがうまく引き出されるように配慮し、呼応しながらすてきな協演へと導いていく。どんなミュージシャンと協演しても、あきれるほどに自分の役割に忠実だ。私は、ジム・ホールが参加している演奏をじっと聴きながら理想的なコミュニケーションというのはどういうものなのかをいつも直感的に感じ取っている。

韓国を代表するグラフィックデザイナーのイ・ジェミンさんは、レコード蒐集家でもあり、音楽に造詣が深い。著書『掃除しながら聴く音楽』(未邦訳)の中で自身が集めたレコードと好きな音楽について書いていて、「チェキラウト」に出演したとき、まさに『インターモデュレーション』とジム・ホールのことが話題になって盛り上がった。

『掃除しながら聴く音楽』には、次のように、『インターモデュレーション』でのジム・ホールの役割がこれ以上にないぐらいかっこよく表現されている部分がある。


このアルバムでジム・ホールは、まるでビル・エヴァンスを慰めているように思える。(中略)内向的で、意気消沈しているビル・エヴァンスに「今日は俺が酒をおごるよ。大丈夫。きっとうまくいくさ」と言葉をかける。すると、引きこもり中だったビル・エヴァンスは、出かけようかどうしようかと迷っていたかと思うと外出の準備をしてしまう。酒を飲み、会話をしながら、二人はそれなりに楽しい夜を過ごす。過ぎてしまったことにはあえて言及しない。相手にプレッシャーを与えず、配慮するのも才能だ。ジム・ホールの演奏はそうやって、空いたグラスをカウンターに置くとさりげなく現れるバーテンダーのように、いるべき場所に正確に存在するみたいに思える。そしてそこに、ビル・エヴァンスは、穏やかな気持ちで自身の生命水をとても優雅な手つきで少しずつ注いでいく[『掃除しながら聴く音楽』八十七ページより引用、ワークルーム、二〇一八]。

そして、それは私が思い描く「チェキラウト──キム・ハナの側面突破」という二重奏の理想の風景でもある。「空いたグラスをカウンターに置くとさりげなく現れるバーテンダー」のような役割を私はうまくやり遂げたい。

会話を音楽にたとえるなら、二重奏の内容と呼吸を考慮しなければならないのはもちろん、「音響」にも注意を傾けなければならない。実際、私は音響としての声の役割を、時には話の内容よりも重視しているのだが、ただただ、誰かの穏やかで柔らかい声を聴いているのが心地よくて、内容よりもその声に注意を傾けた経験が誰にでもあるのではないかと思う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

スペイン国防相搭乗機、GPS妨害受ける ロシア飛び

ワールド

米韓、有事の軍作戦統制権移譲巡り進展か 見解共有と

ワールド

中国、「途上国」の地位変更せず WTOの特別待遇放

ワールド

米、数カ月以内に東南アジア諸国と貿易協定締結へ=U
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
2025年9月30日号(9/24発売)

トヨタ、楽天、総合商社、虎屋......名門経営大学院が日本企業を重視する理由

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...「文学界の異変」が起きた本当の理由
  • 2
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 3
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市場、売上を伸ばす老舗ブランドの戦略は?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    「汚い」「失礼すぎる」飛行機で昼寝から目覚めた女…
  • 6
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがた…
  • 7
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 8
    カーク暗殺をめぐる陰謀論...MAGA派の「内戦」を煽る…
  • 9
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 10
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 1
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 2
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分かった驚きの中身
  • 3
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがた…
  • 6
    【動画あり】トランプがチャールズ英国王の目の前で…
  • 7
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...…
  • 8
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 9
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 10
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 6
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中