最新記事

医療

ウクライナ情勢が新薬開発の臨床試験に影響 ファイザーなど対応追われる

2022年3月15日(火)10時15分

ベロシティー・クリニカル・リサーチのポール・エバンス最高経営責任者(CEO)は、ロシアがクリミアを編入した2014年にも業界はこの地域で似たような試練に直面したと説明。「当時は全面的な戦争状態ではなかった」と語り、現在ウクライナで臨床研究をするのは不可能に近いと付け加えた。また「恐らくロシアでは既存の試験を終えるのは可能だが、新たな試験に着手する意欲はそがれるだろう」と話した。

相次ぐ登録停止

製薬会社はしばしば、大規模な臨床試験を多くの国にまたがって行う。その際、積極的に参加する意思のある患者が多く、米国や西欧に比べて事業コストが低いウクライナとロシアは業界にとって引く手あまたの地域となってきた。

ただジェフリーズのアナリスト、クリス・ハワートン氏は、ウクライナでの戦争が長引けば、なお登録手続きをしている幾つかの試験は別の地域に移転する公算が大きいとの見方を示した。

ウクライナで事業展開している製薬会社のうち、現在進行中の臨床試験が60件近くと最も多いメルクの場合、ウクライナとロシアにおいて患者の新規登録を一時停止した。メルクは7日、商業的な顧客と同じように試験登録した患者も製品を入手できるよう手を尽くしていると強調した。

欧米のロシアに対する経済制裁は、医薬品を対象に含めていない。グローバルデータによると、ロシアで現在行われている臨床試験は842件で、世界6番目の多さだ。

もっとも複数の専門家は、研究者が入国するための航空便がないなど、ロシアで臨床試験を継続するのは難しい要因を幾つか挙げている。

米日用品・製薬大手ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)は、ウクライナとロシア、ベラルーシで臨床試験の新規登録とスクリーニングを一時停止したと発表。ウクライナで27件の試験を実施しているファイザーも、新規患者の募集を中止した。

米製薬会社カルナ・セラピューティクスはウクライナで統合失調症治療薬の試験の登録を停止し、スティーブン・ポールCEOはロイターに、必要なら米国で被験者を追加募集する可能性があると明かした。

ベロシティーのエバンス氏は「ウクライナでは社会構造が完全に崩壊している。そうした戦争地域で臨床試験を行えるはずなどない」と述べた。

(Manas Mishra記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2022トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・【まんがで分かる】プーチン最強伝説の嘘とホント
・「ロシア人よ、地獄へようこそ」ウクライナ市民のレジスタンスが始まった
・ウクライナに「タンクマン」現る 生身でロシア軍の車列に立ち向かう
・ウクライナ侵攻の展望 「米ロ衝突」の現実味と「新・核戦争」計画の中身


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米EV税控除、一部重要鉱物要件の導入2年延期

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ

ビジネス

NY連銀総裁、2%物価目標「極めて重要」 サマーズ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中