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「日本経済」が韓国に追い抜かれた納得の理由 同じ構造的問題を抱えた両国で何が差を生んだのか

2022年3月11日(金)18時30分
リチャード・カッツ(在ニューヨーク 東洋経済 特約記者)*東洋経済オンラインからの転載
日本と韓国の国旗

写真は日韓の国旗。東京で2012年8月撮影(2019年 ロイター/Yuriko Nakao)

日本経済研究センターが2027年には韓国が名目GDPで日本を上回りし、台湾も同年に上回ると予測したとき、大きなニュースとなった。しかし、国際通貨基金(IMF)によると、韓国はすでに2018年に日本を追い抜き、台湾は2009年に追い抜いている。

さらに、韓国は2026年までに日本より12%リードするとみられている。 IMFは、購買力平価(PPP)と呼ばれる基準を用いており、これは、実際の生活水準を比較するために、価格と為替レートの変動を均衡するものだ。

「逆転」が日本について語ること

しかも、韓国は日本とは異なり、その成長成果を労働者に与えてきた。1990年から2020年までの30年間、平均的な日本の労働者は年間実質賃金(付加給付を除く)の上昇を享受しなかったが、韓国の労働者の賃金は2倍になっている。現在、韓国の労働者は日本の労働者よりも高い実質賃金を得ている。

この「逆転」は、韓国よりも日本について多くを語る。健全な新興工業国は、経済的に裕福な国の技術レベルに追いつくペースが早く、経済的にも富裕国より早く成長する。日本と韓国も同様に先進国の技術に追いつき、経済成長を果たしてきた(そして日本については、奇跡の成長が終わった後も、技術的な進化は続いた)。

1970年には日本の時間あたりの労働生産性は、アメリカのそれの40%に満たなかったが、1995年までに71%にまで上昇した。が、その後、失われた10年の間に日本が後退したことで、この数字は63%にまで低下している。

一方、韓国はアメリカに追いつき続けた。1970年の時間あたりの労働生産性アメリカの10%に過ぎなかったが、2020年までに58%に急上昇。まもなく、韓国はこの指標でも日本を追い抜くだろう。

1時間あたりの実質GDP(対アメリカ、%)

韓国の成長が特に際立つのは、韓国が日本と同じ構造的欠陥を有しているにもかかわらず、これを軽減する方法を見出したからだ。日本と同様、韓国は「二重経済」である。すなわち、韓国経済は、国内製造業の一部と多数のサービス業という、極めて効率的な輸出部門、そしてひどく非効率的な部門で成り立っている。韓国における中小企業と大企業間の生産性格差はOECDで3番目に悪い。

一方、労働力の3分の1以上は、低賃金の非正規労働者で構成されている。 経済が非常に不均衡なため、2019年の韓国の全輸出は、驚くべきことにサムスン電子だけで2割を占めている。これは非常に危険である。

「韓国の未来は日本を見ればわかる」と警告

こうした状況下、ワシントンに本拠を置く韓国経済研究所は、改革をしなかった場合、「韓国の未来は日本を見ればわかる」と警告した。加えて、世界的な競争力を持つ産業がいつまでも「経済全体を動かすのに十分な大きさのエンジン」であり続けることは両国とも不可能だ、と付け加えた。

実際、韓国の1人当たりの成長率は、1980年代半ばの年間9%から2014〜2019年にはわずか2.5%とすでに低下している。もっとも経済が成熟するにつれて成長は鈍化するものであり、2.5%は同期間の日本の成長率(1.1%)を上回っている。それでもOECDによると、韓国に日本のような構造的欠陥がなければ、年間成長率は1〜2%高くなる可能性がある。

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