最新記事

人種問題

イギリス金融街「負の遺産」に向き合う 奴隷貿易に関与していた過去を調査公表へ

2021年10月12日(火)17時33分

一方で、ロンドンの保険市場における黒人及びマイノリティーの地位向上を目的に設立された「アフリカ・カリブ海保険ネットワーク(ACIN)」は、違う考えを持っている。ACINは昨年ロイズに提出した意見書で、企業は「組織が残してきたものを検証し、人種差別的な意味合いを消していくべきだ」との見解を示した。

ロイズの引受人でACIN共同創設者のジュニア・ガーバ氏は、ロイズビルの展示室に奴隷貿易への関与の証拠を展示する方がいいとし、「歴史を無視することはできないが、説明すること、教育することはできる」と語った。

深く刻まれた痕跡

ロンドンの名高い保険機構であるロイズには、奴隷貿易の痕跡が広く深く残されている。

アンガースタインが収集した美術品にはルーベンス、ラファエロ、レンブラントの作品が含まれ、ロンドン・ナショナル・ギャラリーの設立時には展示品の中心となった。

ナショナル・ギャラリーのウェブサイトでは、アンガースタインと奴隷貿易の関わりについては何も言及されていない。むしろ、アンガースタインが奴隷制廃止を支持する「貧困黒人救済委員会」に所属していたとの記述がある。

ナショナル・ギャラリーはロイターに宛てた電子メールで、LBSとの協力のもとで奴隷所有と美術品収集、英国における慈善活動との関連を明らかにし、年内に暫定的な結果を公表すると説明した。アンガースタインについてもこの調査に盛り込まれる予定だ。

ドレイパー氏の調査によれば、アンガースタインは「その実績と資産の基盤となった海運保険事業において、奴隷制の恩恵を受ける身だった」という。アンガースタイン自身が奴隷貿易業者であったという証拠は存在しない。

アンガースタインをはじめとするロイズの名士たちの肖像画をどうするかという判断は、かつてシェークスピア・グローブ座のアーキビストを務めていたビクトリア・レーン氏による検証が完了した後になる。

レーン氏がロイズでの作業を開始したのは9月。ロイズが保有する美術品、刀剣類、銀器、文書を徹底的に調べている。ロイズは、レーン氏に対するインタビューの依頼を拒否した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ハンガリー首相と会談 対ロ原油制裁「適

ワールド

DNA二重らせんの発見者、ジェームズ・ワトソン氏死

ワールド

米英、シリア暫定大統領への制裁解除 10日にトラン

ワールド

米、EUの凍結ロシア資産活用計画を全面支持=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 7
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中