最新記事

人種問題

イギリス金融街「負の遺産」に向き合う 奴隷貿易に関与していた過去を調査公表へ

2021年10月12日(火)17時33分
英保険会社ロイズ・オブ・ロンドンの社内

英国の船舶は、奴隷とされたアフリカの人々を300万人以上、大西洋の向こう側に運んだ過去がある。写真は2019年4月、ロイズ・オブ・ロンドンのビル内で撮影(2021年 ロイター/Hannah McKay)

英国の船舶は、奴隷とされたアフリカの人々を300万人以上、大西洋の向こう側に運んだ過去がある。

こうした船舶の多くは、英保険市場ロイズ・オブ・ロンドン(ロイズ保険組合)によって保険をかけられていた。ロイズの引受人は、甲板の下に鎖でつながれた人々を家畜と並んで「生鮮品」に分類することもあった。

金融街シティーにそびえる近代的なロイズビルに設けられた常設の展示室では、大西洋を越えた奴隷貿易にロイズが関与していたことへの言及は見られない。だが、その状況は変わりはじめている。

「奴隷制が残した遺産が人種差別だ。奴隷とされた人々を人間以下の存在とみなさない限り、奴隷制を機能させるための条件を整えることはできない」と語るのは、元JPモルガンのバンカー、ニック・ドレイパー氏。同氏はユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの英国奴隷制遺産研究センター(LBS)で所長を務めた。

「私たちは、民族、人種、肌の色をもとに差別をした。それは英国、そして欧州の文化に染みついている。私たちはいま、その問題に対処しようとしている」

昨年の「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切だ)」を掲げる抗議を経て、ロンドンの他の金融機関と同様、ロイズも人種差別的な過去に向き合わざるをえなくなっている。

ロイズとイングランド銀行(英中央銀行)は、奴隷貿易においてどのような役割を担ってきたか、それぞれ歴史研究者に調査を依頼しており、来年その結果を公表する計画だ。

ロイズビルでの展示では、残酷な奴隷制をもとに築かれた資産と、シティーで最高の敬意を集める重鎮たちの一部が奴隷制の維持において担った役割に光を当てることになるだろう。そうした重鎮の1人が、「ロイズの父」と呼ばれるジョン・ジュリアス・アンガースタインだ。

18世紀産業界の大物であるアンガースタインがロイズの会長を務めていた頃、事業のかなりの部分は奴隷貿易に依存していた。ロイズは、奴隷にされた人々を保有していたカリブ海地域の複数事業を巡り、アンガースタインが管理に関与していたことを示唆する証拠があるとしている。

ロイズ本社には、アンガースタインの肖像が飾られている。

ブルース・カーネギーブラウン会長は、ロイズが過去を直視することを望んでいるが、肖像画の撤去は望んでいない。

「なかったことにするのではなく、それについて語る方を選びたい」とロイターに述べた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中独首脳会談、習氏「戦略的観点で関係発展を」 相互

ビジネス

ユーロ圏貿易黒字、2月は前月の2倍に拡大 輸出が回

ビジネス

UBS、主要2部門の四半期純金利収入見通し引き上げ

ビジネス

英賃金上昇率の鈍化続く、12─2月は前年比6.0%
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 2

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無能の専門家」の面々

  • 3

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 4

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 5

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 6

    韓国の春に思うこと、セウォル号事故から10年

  • 7

    キャサリン妃は最高のお手本...すでに「完璧なカーテ…

  • 8

    中国もトルコもUAEも......米経済制裁の効果で世界が…

  • 9

    中国の「過剰生産」よりも「貯蓄志向」のほうが問題.…

  • 10

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入、強烈な爆発で「木端微塵」に...ウクライナが映像公開

  • 4

    NewJeans、ILLIT、LE SSERAFIM...... K-POPガールズグ…

  • 5

    ドイツ空軍ユーロファイター、緊迫のバルト海でロシ…

  • 6

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 7

    ロシアの隣りの強権国家までがロシア離れ、「ウクラ…

  • 8

    金価格、今年2倍超に高騰か──スイスの著名ストラテジ…

  • 9

    ドネツク州でロシアが過去最大の「戦車攻撃」を実施…

  • 10

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中