最新記事

エネルギー

ロシア国営ガスプロムに欧州から厳しい視線 ガス価格高騰で

2021年10月8日(金)11時19分

長期契約相手の欧州企業が本当に供給増を求めているかもはっきりしない。ロイターが問い合わせたところ、ウィンガスとエンジーは追加のガス供給は要請していないと回答。ENI、ユニパー、OMV、RWEはガスプロムが契約を履行しているという以上のコメントは出さなかった。

2人のガスプロム関係者は、スポットの買い手からもっとガスが欲しいという声は聞かれないと話した。

ガスプロムのデータからは、旧ソ連圏外向けの1─9月輸出が前年同期比15.3%増の1458億立方フィートだったことが分かる。この輸出先には欧州とアジアが含まれている。

ノルドストリーム2が稼働すれば年間の供給能力は550億立方メートル上乗せされる。ただガスプロムが既存のパイプライン経由で欧州スポット市場の買い手に供給量を急いで増やしている気配はほとんど見当たらない。同社が10月分の「ヤマル・ヨーロッパ」パイプラインの輸送枠全体のうち抑えたのはおよそ3分の1にとどまり、ウクライナ経由での追加輸送もしていない。

供給余力

スポット市場のデータを見ると、ロシアからの供給はむしろ減っている。フィッチ・レーティングスのシニアディレクター、ドミトリー・マリンチェンコ氏によると、7-9月にガスプロムが欧州スポット市場で販売した年内受け渡し分のガスは5億立方メートルで、欧州経済がまだ低調だった1年前の31億立方メートルを下回った。

マリンチェンコ氏は「ガスプロムの輸出がそれほど高まらないのは国内で生産を抑制している結果か、それともノルドストリーム2の稼働で需要が強まるようにする狙いなのか、完全には分からない」と述べた。

欧州の天然ガス価格は8月、ガスプロムがノルドストリーム2経由で年内に56億立方メートルを出荷する意向を示すと一時軟化。その後欧州側の承認手続きが長引くとともに、そうした新規供給への期待が薄れ、価格は反発した。ノルドストリーム2から予定していた供給分を別ルートに切り替えができるのかどうかは、なお判然としていない。

BCSグローバル・マーケッツのシニアアナリスト、ロナルド・スミス氏は、いずれにしても追加供給があれば欧州の天然ガス価格高騰を抑える効果があると指摘。「今のように市場が緊迫している局面なら、小規模の追加供給でも価格に並外れた影響力を及ぼすことができる」と強調した。

とはいえガスプロムはもうそれほど余力がないかもしれない。スミス氏によると、同社の生産量は日量15億立方メートル超というピークに近づいている。一方、北西欧州に保有する在庫は1年前に比べて70%ほど少ないことが、リフィニティブのデータから読み取れる。

つまり欧州はもっと厳しい状況に置かれかねない。ゴールドマン・サックスは「ガスプロムの北西欧州在庫が極めて低いという点を踏まえれば、同社がこの冬を通じて契約上の義務を果たせなくなるリスクがあるとみている」と警告した。

(Katya Golubkova記者、Vladimir Soldatkin記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2021トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・誤って1日に2度ワクチンを打たれた男性が危篤状態に
・新型コロナ感染で「軽症で済む人」「重症化する人」分けるカギは?
・世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 7

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 8

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中