最新記事

金融政策

米FRB、量的緩和縮小11月開始が視野に 雇用統計受け

2021年10月10日(日)10時52分
求人の看板

9月の米雇用統計で非農業部門雇用者数の伸びが大幅に鈍化したが、米連邦準備理事会(FRB)は11月にもテーパリング(量的緩和の縮小)に着手する可能性がある。写真は求人のサイン。米フロリダ州タンパで6月撮影(2021年 ロイター/Octavio Jones)

8日に発表された9月の米雇用統計で非農業部門雇用者数の伸びが大幅に鈍化したが、米連邦準備理事会(FRB)は11月にもテーパリング(量的緩和の縮小)に着手する可能性がある。

米労働省が発表した9月の雇用統計は、非農業部門雇用者数が前月比19万4000人増と、市場予想の50万人増を大きく下回る伸びとなった。ただ、8月の雇用者数は当初の23万5000人増から36万6000人増へ上方改定された。

パウエルFRB議長は先月、9月の雇用統計が「適切な」結果であれば11月にテーパリングを開始する準備が整うと表明。バンク・オブ・ザ・ウエストのチーフエコノミスト、スコット・アンダーソン氏は「パウエル氏の『適切』というハードルをぎりぎりクリアしていると思う。引き続き11月のテーパリング発表が最も可能性が高いだろう」と述べた。

また、BKアセットマネジメントのマネジングディレクター、キャシー・リエン氏は「FRBは11月のテーパリング開始に大幅な雇用の伸びを必要としていないことを明確にした」とし、FRBは「引き続き軌道に乗っている」とした。

ただ、今回の雇用統計によりFRBの今後の方針がより複雑になったとの指摘もある。

ノーザン・トラストのエコノミスト、カール・タネンバウム氏は「FRBは9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)時のテーパリング開始に関する判断を十分裏付けるような大きな伸びを期待していた」と指摘。「11月2─3日のFOMCでの議論は一段と困難になるかもしれず、市場はさらなる不確実性に対応しなければならない」とした。

もっとも、労働市場では新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)に伴う事業閉鎖後に開いた深い穴が埋まりつつある。米就業者数は昨年12月時点でコロナ禍前のピークを約1000万人下回っていたが、9月時点では約497万人まで縮小した。

FRBがテーパリングを開始した場合、その後どのくらい早期に利上げに踏み切るのかは不明。TDセキュリティーズのアナリストは今回の雇用統計により「2022年の利上げに向けた熱意が幾分和らぐ」と予想した。

短期金利の期待を示すフェデラル・ファンド(FF)金利先物では、9月の米雇用統計が市場予想を大幅に下回ったにもかかわらず、FRBが22年11月または12月に政策金利を0.25%ポイント引き上げることを引き続き織り込んでいる。

焦点となるのは新型コロナウイルス感染の動向だ。新規感染者数はここ数週間で減少しているが、こうした傾向が続くのか、それとも冬季に再び感染が拡大し消費者を動揺させ、景気回復の足かせになるのか注目される。

もう1つの焦点はインフレ率の動向だ。FRB当局者は来年には落ち着くと予想しているが、そのような展開にならなければ労働市場が完全に回復する前に利上げを実施せざるを得なくなる可能性がある。

3つ目は労働市場がどの程度回復することができるかという点だろう。

しかし、8兆5000億ドルに膨れ上がったFRBのバランスシートを快く思わないアナリストにとって、テーパリングへの道筋は揺らいでいない。

ブラックロックのグローバル債券を担当するリック・リーダー最高投資責任者(CIO)は「FRBはおそらく非常に近い将来に過剰な流動性緩和の縮小に向けた計画を進めるだろう」と語った。

(Ann Saphir記者、John McCrank記者、Stephen Culp記者、Herb Lash記者、Anisha Sircar記者、David Randall記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2021トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・誤って1日に2度ワクチンを打たれた男性が危篤状態に
・新型コロナ感染で「軽症で済む人」「重症化する人」分けるカギは?
・世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

英建設業PMI、11月は39.4 20年5月以来の

ワールド

ウクライナ軍撤退なければ、ドンバス地方を武力で完全

ビジネス

アングル:長期金利2.0%が視野、ターミナルレート

ワールド

中国、レアアース輸出ライセンス合理化に取り組んでい
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 3
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 4
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中