最新記事

日本企業

震災から10年、製造業は想定外に備え代替戦略 サプライチェーンで進む「見える化」

2021年3月11日(木)13時07分

需要家にも危機意識

トヨタ自動車は2013年に導入した情報システムで、部品によっては10次の仕入先まで状況を補足している。地震発生時に震度の大きかった地点を検索すると、周辺に拠点をもつ仕入先の部品などの情報が把握でき、電話や現地での確認作業に速やかに移行できる。

トヨタには、東日本大震災時に「1次の仕入先からはすぐに情報が得られたが、2次以下は把握しにくかった」(広報)との問題意識があった。当時は供給網の状況把握に2週間程度かかった。これが今では半日で完了するという。

在庫のあり方も見直した。半導体は「部品によって違うが、1─4カ月程度の在庫を保有している」と、近健太執行役員は2月の決算会見で説明した。関係者によれば、自社在庫だけでなく、商社や1次、2次の仕入先など、供給網の各段階に分散して在庫を確保している。

トヨタにも課題は残る。例えば、加工が難しい部品など、調達先が限られる「リスク品目」がある。汎用品への設計見直しなどで約150へと震災前の10分の1に絞り込んできたが、自動車の技術革新とともに、新たなリスク品目は今後も生じ得る。有事に備えた供給網維持の取り組みは「終わりのない活動」(広報)と、同社では捉えている。

内閣府の調査によると、BCP策定済みの大企業は19年に68.4%まで拡大した。津波被害を受けたキリンホールディングスは、豪雨などあらゆる自然災害に対応した「オールハザード型のBCP」への変更や、複数購買を進めている。ENEOSホールディングス子会社のJX金属も複数購買を進め、主要仕入先のBCP対応を確認するようにした。

大企業での取り組みは進んできたが、中堅企業は内閣府の19年調査で34.4%、小規模企業は帝国データバンクによる20年の調査で7.9%にとどまった。京都産業大学の中野幹久教授は、供給網を統括するような部署が重要な役割を担うが、規模が小さい企業ほど設置が進んでいないと指摘。「最終製品を手掛ける大企業が、供給網をさかのぼって支援するような取り組みが重要」と話す。

(平田紀之 取材協力:白木真紀 編集:久保信博)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2021トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・3.11被災地を取材し続けてきた櫻井翔が語る「記憶」とずるさ、喜び
・震災から10年、検証なきインフラ投資 復興に重い課題
・世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...
→→→【2021年最新 証券会社ランキング】



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

米債市場の動き、FRBが利下げすべきとのシグナル=

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税コストで

ビジネス

米3月建設支出、0.5%減 ローン金利高騰や関税が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中