最新記事

ライフライン

「電力自由化は失敗」 節電要請が目前に迫るほど日本の電力事情は脆弱だ

2021年1月30日(土)12時22分
坂本竜一郎(経済ジャーナリスト) *PRESIDENT Onlineからの転載

新電力の1月分電気料金が通常時の2倍以上になる恐れ

一連の全国的な電力需給の逼迫は自由化の目玉である新電力各社の経営も直撃している。自前の発電所を持たない新電力が「商材」となる電力を調達する卸売価格が高騰しているためだ。

今年に入り、1月分の電気料金が通常時の2倍以上になる恐れも出てきた。LNG不足で火力の発電量が減ったため、大手電力が卸市場に出すガス火力の電力も減るためだ。寒波の影響で需要が増加し、スポット価格が高騰した。

日本卸電力取引所(JEPX)の指標価格は1月中旬に一時1キロワット時あたり150円台と、12月上旬と比べて約25倍に上がった。一般的に家庭の電気料金は1キロワット時あたり20円台の場合が多い。新電力が販売する電力を全て市場調達に頼る場合、単純計算で電力を1キロワット時売るたびに100円超の赤字となる水準だ。

一部の新電力は市場価格を電気料金に直接反映する販売プランを採用している。ダイレクトパワー(東京・新宿)や自然電力(福岡市)によると、1月分の電気料金は通常時の2倍以上になる可能性があるという。

新電力Looopは複数の新電力と事業の譲り受けを協議

新電力の中では経営危機に直面する事業者も出てきている。新電力のLooop(東京・台東)は複数の新電力と事業の譲り受けに向けた協議を始めた。急騰する卸売価格をそのまま電力料金に反映すれば顧客離れは避けられない。

新電力事業の競争環境が厳しさを増す中、ある事業者は「ただでもいいから事業を引き取ってくれる先を探している」と打ち明ける。

事態を重く見た経済産業省は新電力を支援する対策を発表した。

事前の販売計画と実際の販売量にズレが生じた際に支払う「インバランス」料金について、新電力が電力供給を受けた大手電力会社などに支払う金額に上限を設ける。これは1月17日の電力供給分から適用した。

インバランス料金はJEPXと連動している。昨年12月前半は1キロワット時あたり4円台の時もあったが、1月以後は高いときで220円と新電力の経営を圧迫している。経済産業省はインバランス料金に1キロワット時あたり200円の上限価格を設けて影響を軽減する。

それでも「インバランス料金の見直しだけでは効果は限定的だ」(大手証券アナリスト)との声もあり、追加の対策が必要になる可能性もある。

今冬の電力不足が浮き彫りにした日本の電力網の脆弱性

日本の電力小売りの全面自由化からこの4月で5年を迎える。新規参入が相次ぎ、新電力の販売電力量は全体の約2割を占める規模まで拡大している。しかし、この冬の一連の電力不足が日本の電力網の脆弱ぜいじゃく性を浮き彫りにした。

不完全な電力自由化と、急速な再生エネルギーシフトで混乱に拍車をかける脱・炭素政策。「再エネは安定供給に難があることは誰でもわかる話。そこをどう埋めていくのか。再エネで跳ね上がる電気料金を誰が負担するのかも議論が進んでいない」(前出の大手電力幹部)。

東電福島第1原発の事故から10年が経つ。だが、菅政権は選挙を気にして原発について正面からの議論を避けている。新型コロナウイルス感染が止まらない中、菅政権はまた重い課題を一つ抱え込んだ。

※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら。
presidentonline.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

フィリピン、大型台風26号接近で10万人避難 30

ワールド

再送-米連邦航空局、MD-11の運航禁止 UPS機

ワールド

アングル:アマゾン熱帯雨林は生き残れるか、「人工干

ワールド

アングル:欧州最大のギャンブル市場イタリア、税収増
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 9
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 10
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 9
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中