最新記事

日本経済

「アベノミクスは買い」だったのか その功罪を識者はこうみる

2020年8月28日(金)17時54分

デフレからの脱却を目指した安倍晋三首相の経済政策アベノミクスに対しては、株価を大きく上昇させたことを評価する見方がある一方、日本経済を成長軌道に乗せることができなかったと批判的にみる声もある。写真は5月、都内で安倍首相の記者会見映像を映すスクリーン(2020年 ロイター/Issei Kato)

デフレからの脱却を目指した安倍晋三首相の経済政策アベノミクスに対しては、株価を大きく上昇させたことを評価する見方がある一方、日本経済を成長軌道に乗せることができなかったと批判的にみる声もある。日銀の元当局者やエコノミスト、大学教授に話を聞いた。

◎早川英男・東京財団政策研究所上席研究員(元日銀理事)

アベノミクスは要するに円安政策だったということに尽きる。金融緩和で円が安くなり、それに伴って株価が上がったということはあるが、それ以外に取り立てて起こったことは何もなかった。

安倍首相に対しては、これだけの支持率があるのだから思い切って大胆な成長戦略を打ってほしいとみなが思っていたのに、いつまでも支持率を維持することが大事で、結局、ポリティカル・キャピタル(政治的資本)を無駄にした。

経団連に圧力をかけて毎年賃上げさせていたが、来年は完全にゼロベアに戻るだろう。何年かの賃上げが消える。インバウンドも消えたし、アベノミクスのレガシーは次々と消えていく。

◎木内登英・野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミスト(元日銀審議委員)

アベノミクスの成果であると考えられていたもののかなりの部分は、世界経済の回復の追い風によるものだ。安倍政権下で株高・円安が急ピッチで進んだが、世界経済の順風がなければ短期間でしぼんでいた。

財政ではプライマリーバランス(PB)が改善しているように見えたことで、思い切った財政健全化策がとられなかった。金融政策でも、デフレ脱却を掲げてしまったがゆえに、デフレではなくなってきているという表現にはなったが、デフレを克服したという宣言には至らず、異例な金融政策を続けてしまった。

テーマが毎年変わっていったことも問題だ。『3本の矢』『新3本の矢』『ウーマノミクス』『地方創生』と打ち上げていかないと政治的なモメンタムは維持できないが、継続してやらないと効果は出にくい。

◎浜矩子・同志社大学大学院教授

金融政策は、そもそもが財政ファイナンスを狙いとしていた。経済基盤づくりのために作りだした「打ち出の小槌」のようなものだ。物価安定2%目標は建前にすぎない。

安倍政権は分配政策にまともに取り組んでこなかった。日本経済の最大の問題は豊かさの中の貧困。日本は富の蓄積の大きい国だが、相対貧困率が15%前後も存在し、弱者切り捨ての構図を残した。分配政策に対応してこなかったため、コロナ禍で弱者がより痛む構図をもたらした。大いなる負の遺産だ。

コロナ対策がゾンビ企業の温存につながるとの指摘は当たらない。この際だから淘汰された方がいいとの論調が前面に出ると、ますます弱者いじめの様相が強くなる。できる限り救済していかないと、基盤脆弱にして強いものだけが幅を利かせるという、歪んだ日本経済の構図ができ上がっていく。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる

ワールド

ウクライナ南部オデーサに無人機攻撃、2人死亡・15

ビジネス

見通し実現なら利上げ、不確実性高く2%実現の確度で

ワールド

米下院、カリフォルニア州の環境規制承認取り消し法案
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中