最新記事

米中関係

トランプ「米中経済デカップリング」発言に懸念広がる その現実味は?

2020年6月27日(土)11時53分

トランプ米大統領が先週、中国との「完全なデカップリング(切り離し)」に言及して以降、複数の政権高官が火消しのコメントに走るなど、波紋が広がっている。メリーランド州のアンドルーズ空軍基地で撮影(2020年 ロイター/Carlos Barria)

トランプ米大統領が先週、中国との「完全なデカップリング(切り離し)」に言及して以降、複数の政権高官が火消しのコメントに走るなど、波紋が広がっている。もっとも、勇ましい発言は厳しい現実の壁にぶつかりつつある。なぜなら中国による米国製品輸入や米企業の対中投資は増え続けており、市場は米中のデカップリングを懸念しているからだ。

22日夜にはナバロ大統領補佐官がFOXニュースのインタビューで米中貿易協議の第1段階合意は「終わった」と発言し、アジア市場時間帯で株式先物が下落してボラティリティー・インデックス(VIX)が跳ね上がったが、同日中にすぐに同氏がこれを撤回。新型コロナウイルスの感染拡大についての米中間の信頼欠如に触れたのが真意だと釈明した。トランプ氏自身がツイッターで、第1段階合意は「無傷」だと強調して見せたからだ。

クドロー国家経済会議(NEC)委員長は23日、中国が貿易合意の面で責務を果たしていると評価した。

そもそも騒ぎの発端となったトランプ氏の前週の発言は、米中のデカップリングが現実的とは思わないという趣旨のライトハイザー通商代表の議会証言を、全面的に否定したものだ。背景には、中国に対する強硬姿勢を選対陣営が再選戦略の柱の1つに据えているという基本的な事情がある。

だがトランプ氏が発したメッセージの一部、つまり米国は最大のサプライヤーである中国とたもとを分かつことができるし、積極的にそうするという考え方は、地に足がついていない。

実際米中貿易は、新型コロナウイルス感染拡大で一時的に落ち込んだ後、拡大を続けている。米商務省センサス局によると、米国の対中輸出は2月に68億ドルと10年ぶりの低水準だったものの、4月は86億ドルに増加。中国からの輸入も、11年ぶりの低さだった3月の198億ドルから311億ドルに増えた。

米農務省のデータを見ると、4月の中国向け大豆輸出は42万3891トンと、20万8505トンだった3月の2倍以上に膨らんだ。

こうした中でライトハイザー氏やポンペオ国務長官、ムニューシン財務長官といった政権高官は最近、中国が米国の農産品や工業生産などを追加購入するという第1段階合意を守るつもりがあると相次いで請け合っている。

ポンペオ氏は23日のラジオ番組で新たな冷戦についての見解を聞かれると、米経済と中国の結びつきは、旧ソ連と比べてはるかに強いと指摘。「われわれはその事情を踏まえて考えなければならない。米国の経済成長と繁栄は現在、中国経済と深く絡み合っているからだ」と語り、トランプ氏は米国の利益を守る決意だとも強調した。

一方ムニューシン氏は、ブルームバーグとインベスコが開催したイベントで、米企業が中国で公平な競争ができない場合には、米中のデカップリングが起こり得ると述べた。

米中貿易協議に詳しい関係者は、ナバロ氏の発言は単に口が滑っただけで、同氏自身の従来からの対中強硬姿勢が反映されたものであり、トランプ政権の見解ではないと釈明した。

この関係者の話では、中国政府の複数の高官は、ここ数カ月新型コロナ問題で減少していた米国からの輸入が6月には劇的に増加すると示唆している。

ロディアムグループが最近公表したリポートによると、今年第1・四半期に米企業が発表した中国向け新規直接投資の規模は23億ドルだった。新型コロナ感染拡大があってもなお昨年の四半期平均よりやや少ないだけで、中国における足場を縮小しようとしている米企業がほとんど見当たらないことが分かる。

米戦略国際問題研究所(CSIS)のシニアアドバイザーで通商問題専門家のビル・ラインシュ氏は、米中経済が足かけ20年間、手を取り合って成長してきた以上、デカップリングは簡単に実現できないと警告する。

同氏は「中国で中国市場向けサービス事業をするつもりなら、これからも現地にとどまるだろう。国外からサービスは展開できないからだ。トランプ氏が全ての企業に米国に戻れと命令するのは不可能だ。各企業は合理的、経済的な判断を下すことになるからだ」と解説している。


David Lawder

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・コロナに感染して免疫ができたら再度感染することはない?
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・今年は海やプールで泳いでもいいのか?──検証
・韓国、日本製品不買運動はどこへ? ニンテンドー「どうぶつの森」大ヒットが示すご都合主義.


20200630issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年6月30日号(6月23日発売)は「中国マスク外交」特集。アメリカの隙を突いて世界で影響力を拡大。コロナ危機で焼け太りする中国の勝算と誤算は? 世界秩序の転換点になるのか?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ホワイトハウスに「刻印」残すトランプ氏、

ビジネス

ニデック、東証が特別注意銘柄に28日指定 日経平均

ワールド

独IFO業況指数、10月は88.4へ上昇 予想上回

ワールド

トランプ氏「ミサイル実験より戦争終結を」 プーチン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水の支配」の日本で起こっていること
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 5
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 6
    「平均47秒」ヒトの集中力は過去20年で半減以下にな…
  • 7
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 8
    1700年続く発酵の知恵...秋バテに効く「あの飲み物」…
  • 9
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 10
    【テイラー・スウィフト】薄着なのに...黒タンクトッ…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 10
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中