最新記事

日銀の国債買入枠撤廃に「限界」見透かす金融市場 円高圧力も

2020年4月28日(火)07時38分

日銀は27日の金融政策決定会合で国債購入の上限を撤廃した。黒田東彦総裁は、経済対策の財源としての国債に増発圧力が高まる中、日銀として国債購入を強化し長期金利の上昇を抑制する意思を鮮明にした格好だ。1月撮影(2020年 ロイター/KIM KYUNG-HOON)

日銀は27日の金融政策決定会合で国債購入の上限を撤廃した。黒田東彦総裁は会見で財政ファイナンスを否定したものの、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う経済活動の停滞を受け、経済対策の財源としての国債に増発圧力が高まる中、日銀として国債購入を強化し長期金利の上昇を抑制する意思を鮮明にした格好だ。しかし、日銀をはるかに上回るペースで米連邦準備理事会(FRB)はバランスシートを拡大している。BSの拡大ペースに焦点が当たることで円高圧力が再び強まるリスクが浮上している。

市場の評価は財政ファイナンス

上限を設けず必要な金額の長期国債の買い入れを行う――。日銀は27日の決定会合後に公表した声明でこう記し、これまで掲げてきた年80兆円の購入めどを削除した。

声明には、国債の積極的な買い入れの説明として、債券市場における流動性の低下に加えて「政府の緊急経済対策により国債発行が増加することの影響」を明記。黒田総裁は会見で「財政ファイナンスではない」と強調したが、市場からは「日銀は財政ファイナンスに踏み込んだ」(アナリスト)との声が上がった。

麻生太郎財務相は24日の会見で、経済の下支えに向け「日銀と財務省が緊密に連携を取った上でやっていかなければならない」と指摘。普段なら「政府・日銀」とするところを「日銀と財務省」と話した麻生氏に、日銀は声明で応えた格好になった。

高まる財政圧力

政府は27日、一律10万円の給付を盛り込んだ補正予算案を国会に提出した。政府・与党は早期の成立を目指しているが、補正の組み替えで「落とされた」形となった、収入が大幅に落ち込んだ世帯への30万円給付や地方公共団体向けの臨時交付金増額など2次補正に関する議論がすでに出ている。さらに、事業活動への打撃で今年度の税収が予想に届かず、落ち込むことは確実な情勢で、税収減をカバーするための補正予算も避けられないとみられている。

アライアンス・バーンスタインの債券運用調査部長、駱正彦氏は「国債が増発される度に日銀は国債買い入れを徐々に増やすとみており、実質的な財政ファイナンスだろう」と指摘する。

80兆円の長期国債購入目標はこれまで、市場のみならず日銀内でも有名無実化しているとの見方が出ていた。足元の国債購入ペースは年間ベースに引き直して14―15兆円程度で、目標から大きくかけ離れている。ただ、新型コロナ危機の前は、目標を外すことで市場でテーパリング思惑が出かねないとの警戒感が日銀内にはあった。

新型コロナの感染拡大で状況は一変した。黒田総裁は27日の会見で「イールドカーブ全体を低位に安定させることが最も重要だ」と述べ、これまでの会見で繰り返してきた超長期金利の過度の低下へのけん制は封印した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:欧州で増加する学校の銃乱射事件、「米国特

ビジネス

豪サントス、アブダビ国営石油主導連合が買収提案 1

ワールド

韓国、第2次補正予算案を19日に閣議上程へ 景気支

ワールド

米の日鉄投資計画承認、日米の経済関係強化につながる
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 7
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中