最新記事

景気

遅すぎる政府の緊急経済対策・10万円給付案 金融市場の反応は冷ややか

2020年4月16日(木)17時02分

緊急経済対策の目玉である現金給付策が変更されようとしている。一律10万円給付なら総額12.6兆円に上る大規模な政策になるが、マーケットでは遅すぎるとの声が多く、株価はさえない。写真は2011年8月撮影(2020年 ロイター/Yuriko Nakao)

緊急経済対策の目玉である現金給付策が変更されようとしている。一律10万円給付なら総額12.6兆円に上る大規模な政策になるが、マーケットでは遅すぎるとの声が多く、株価はさえない。給付が遅れれば消費者の不安は払拭されず、営業継続を選択する店舗も残り、新型コロナウイルス感染拡大のリスクが消えないためだ。

5月に間に合わずか

一律給付の利点は、選別の手順がなくなることで配布スピードが速まることだ。本当に困っている人に十分な資金が行きわたらないといったデメリットもあるが、売り上げや給与の急減に対する不安を解消するには有効な政策である。

しかし、その利点を活かすような政治の動きにはなっていない。安倍晋三首相は16日、新型コロナ対策として一律10万円の現金支給を盛り込むため、2020年度補正予算を組み替えるよう指示したが、それまでは補正予算を速やかに成立させた後、という考えを示していた。

「2次補正予算なら9月、1次補正をこれから組み換えるにしても、時間がかかるため、実際の給付は6月になる可能性が大きい。いずれにしても一番大変そうな5月には間に合いそうにない」とニッセイ基礎研究所のチーフエコノミスト、矢嶋康次氏は指摘する。

消費者の不安が消えなければ、経済の収縮を止めるのは難しい。10万円給付案が金融市場に伝わったのは14日夕方だが、15日、16日と日経平均は続落。国内の材料だけで動くわけではない日本株だが、少なくとも株価の反応からは、好感する動きはみられていない。

予算組み換えも一苦労

日本の総人口1億2600万人全員に10万円を給付するには12.6兆円が必要になる。2020年度第1次補正予算の財政支出16.8兆円を組み換えたとしても、そう簡単に捻出はできない。

7日に閣議決定された第1次補正予算案では、減収世帯に30万円を給付する「生活支援臨時給付金」に4兆円が計上されていた。12.6兆円の支出をひねり出すには、残り8兆円強を他の歳出から切り崩すか、財政資金の増額が必要になる。

カレンダーベースの国債市中発行額が増発される可能性もあるが、幸いにも円債市場で警戒感は高まっていない。「前倒し債を活用すれば、市中発行額は抑えられる。さらに日銀が国債買入オペを増額させることもできる」(バンクオブアメリカ・メリルリンチのチーフ金利ストラテジスト、大崎秀一氏)という。

前倒し債は30兆円台半ば程度の余裕があると市場では試算されている。日銀も4月のペースでみると、今年度は72兆円の国債買い入れを行うことになるが、国債償還が59兆円あり、ネットでの増加額は13兆円程度。80兆円の「めど」にはまだ余裕がある。

【関連記事】
・政府、緊急事態宣言の対象を日本全国に拡大へ 5月6日まで
・トランプ「新型コロナウイルス、武漢の研究所から流出したものか調査中」
・安倍首相、全国民に一律10万円給付へ補正組み替え指示 公明要請で方針転換へ
・韓国、新型コロナ自宅隔離者の無断外出が続出 犯罪者のような電子リストバンド装着へ

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中