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コトラー流「環境問題解決のための」ソーシャル・マーケティング手法とは?

2019年11月28日(木)16時30分
松野 弘(経営学者、現代社会総合研究所所長)

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フィリップ・コトラー 写真:筆者提供

同書には、環境問題に対するあらゆる利害関係者の行動変革を促進させるためのさまざまな手法が紹介されているが、その目的は、「環境保護のための行動を促進しようと奮闘している現在の実践家、また奮闘しようとする将来の実践家たちにとって、これらの事例やその批判的な検討が有益なものとなり、教訓となり、刺激となること」(はしがき)にあるとともに、「人類が直面している環境問題の重要性を考えると、環境を大きく改善すべく、社会科学の知識を環境問題プログラムの実行に正しく適用する必要がある。......本章における提案を早急に採用することにより、プログラムの実行に成功できると信じている」(第13章)ことにある。

こうしたコトラーのソーシャル・マーケティングの展開は、2015年に国連総会で採択された「私たちの世界を変革する: 持続可能な開発のための2030アジェンダ」、つまり「持続可能な開発目標」(Sustainable Development Goals: SDGs)に掲げられた17の開発目標(貧困・飢餓・雇用・環境・平和等)に触発されていることは確かであろう。

環境問題の具体的な解決を企図したマーケティング・アプローチは、今回紹介したコトラーのソーシャル・マーケティングがおそらく初めてである。環境問題にはグローバルな地球環境問題からローカルな地域環境問題までが含まれるが、このソーシャル・マーケティングは、地域環境問題の解決方策を戦略的に分析・考察し、処方箋の提示をした唯一のものであろう。

この考え方を地方自治体の環境政策や一般市民の環境保護活動に活用することで、日本の環境問題の解決に幾ばくでも貢献できることを期待したいものである。


コトラーのソーシャル・マーケティング ――地球環境を守るために
 フィリップ・コトラー、ダグ・マッケンジー=モーア、ナンシー・R. リー、P. ウェスリー・シュルツ 著
 松野 弘 監訳
 ミネルヴァ書房

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〔引用・参考文献〕
1. Bachelor, R.,(1995), Henry Ford: Mass Production, Modernism and Design, Manchester University press=[邦訳]楠井敏朗他訳(1998)『フォーディズム――大量生産と20世紀の産業・文化』日本経済評論社。
2. Bruno Takahashi," A Review of Social Marketing to Protect the Environment:What Works, Applied Environmental Education & Communication, Routledge, 2012.
3. Karen F. A. Fox and Philip Kotler, "The Marketing of Social Causes: The First 10 Years," Journal of Marketing, Fall 1980, Vol. 44, No. 4,.
4. Kotler Philip and Zaltman Gerald , "Social Marketing: An Approach to Planned Social Change," Journal of Marketing, July 1971, Vol. 35, Issue 3,. (Winner of the 1971 Alpha Kappa Psi Foundation Award for the best 1971 article in the Journal of Marketing.)
5. Kotler Philip, "Advertising in the Nonprofit Sector," in Advertising and Society, ed. Yale Brozen, (NY: New York University Press, 1974).
6. Kotler Philip and Murray Michael, "Third Sector Management - The Role of Marketing," Public Administration Review, September-October 1975, Vol. 35, Issue ]5, (Part winner of the Dimock Award, awarded to articles judged to present the most "innovative solutions for the 70s.")
7. Kotler Philip, Strategic Marketing for Nonprofit Organizations, Prentice-Hall, 1975. (Subsequent editions in 1982, 1987, 1991, 1996, 2003, 2008). Alan Andresen joined as co-author in 1986.
8. Philip Kotler and Eduardo Roberto, Social Marketing: Strategies for Changing Public Behavior, The Free Press, 1989.=1995[邦訳]井関利明監訳『ソーシャル・マーケティング』ダイヤモンド社。
9. Kotler Philip and Lee Nancy R, Corporate Social Responsibility: Doing the Most Good for Your Company and Your Cause, Wiley, 2005=2007[邦訳]恩蔵直人監訳『社会的責任のマーケティング』東洋経済新報社。
10. Kotler Philip and Lee Nancy R., Marketing in the Public Sector: A Roadmap for Improved Performance, Wharton School Publishing, 2006=2007[邦訳]スカイライトコンサルティング訳『社会が変わるマーケティング』英治出版。
11. Kotler Philip and Lee Nancy R., Up and Out of Poverty: The Social Marketing Solution (Philadelphia: Wharton School Publishing, Spring 2009). (A winner in the 800-CEO-Read Business Book Awards for 2009)=2010[邦訳]塚本一郎監訳『ソーシャル・マーケティング――貧困に克つ7つの視点と10の戦略的取組み』丸善。
12. Kotler Philip et al.,,Marketing 4.0: Moving from Traditional to Digital, Wiley, 2016=2017[邦訳]恩蔵直人監訳『コトラーのマーケティング4.0――スマートフォン時代の究極法則』朝日新聞出版社。
13. コトラー・フィリップ(2014)、『マーケティングと共に――フィリップ・コトラー自伝』田中陽他訳、日本経済新聞出版社。
14. 熊倉雅仁(2018)、「マーケティング概念の進化の理論的考察」高千穂論叢53(2)、高千穂大学高千穂学会。
15. McKenzie-Mohr Doug, Lee Nancy R., Schultz P. Wesley , and Kotler,Philip , Social Marketing to Protect the Environment: What Works. Sage 2012.
16. McKenzie-Mohr Dou]g, Fostering Sustainable Behavior: An Introduction to Community-Based Social Marketing (Third Edition),New Society Publishers, 2011.
17. 宮崎哲也(2011)、『フィリップ・コトラーのソーシャル・マーケティングがわかる本』秀和システム。
18. 松野弘(2014)、『現代環境思想論』ミネルヴァ書房。
19. 任意飛(2016)、「アメリカ・マーケティングの形成とその進化」高千穂論叢51(2)、高千穂大学高千穂学会。
20. 高木浩一(2019)、「ビジネスのためのWEB活用術 コトラ-のマ-ケティングを理解する!1.0から4.0 までの歴史」https://swingroot.com/marketing-history/

〔備考〕
筆者は1995年に、コトラーとE. L. ロベルト(E. L. Roberto)による「ソーシャル・マーケティング」に関する理論的・実践的な著作『ソーシャル・マーケティング(Social Marketing: Strategies for Changing Public Behavior)』(The Free Press, 1989)の翻訳に参加し、井関利明・慶應義塾大学教授監訳による『ソーシャル・マーケティング』(ダイヤモンド社)を刊行した。また、筆者はこの『ソーシャル・マーケティング』の冒頭の一部でコトラーが使用している造語、Social Products(社会的製品)=社会貢献型の商品、を啓蒙・普及させる非営利組織、「一般社団法人 ソーシャルプロダクツ普及推進協会」(東京・銀座)を2012年に立ち上げ、コトラー教授にも設立の際にメッセージを寄稿してもらっている。

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