最新記事

金融

暗雲漂うドル円相場の行方──米利下げ、対中関税引き上げの影響は?

2019年8月7日(水)12時45分
上野 剛志(ニッセイ基礎研究所)

米中摩擦の激化は円買い圧力に、追加利下げ観測はドル売り圧力につながりやすい Aquir-iStock.

<ドル円相場を左右する米利下げと米中摩擦、予想される当面のシナリオは>

7月31日(米国時間)に開催されたFOMCを受けて、ドル円相場は108円台後半から109円台前半へと円安ドル高に動いた。しかし、翌8月1日(同)にトランプ大統領が突如対中国関税第4弾の発動を表明したことで、一転して急激な円高ドル安が進行し、本日には107円を割り込む事態となっている。

米国発の材料がドル円を大きく揺るがす中、改めてドル円相場を振り返り、今後の行方を考える。

ドル円相場の変動要因:利下げの織り込みと米中通商摩擦

まず、ここ数ヵ月のドル円レートの推移を振り返ると、昨年終盤以降のドル円レートは円高ドル安基調で推移してきた(図表1)。米長期金利が大幅に低下したことで日米金利差が縮小し、円高ドル安圧力となってきたためだ(図表2)。

nissei190806_1_2.jpg

そして、米長期金利が大きく低下した最大の理由は市場における米利下げの織り込みだ。米中通商摩擦など世界経済の下振れリスクの高まりや物価の低迷を受けて、FRBは今年に入って利上げ路線を中断した後、次第に利下げ方針へとシフトしていったが、市場では、先んじて利下げを織り込む動きが強まった。

先物市場が織り込む来年4月FOMCにかけての利下げ回数は年初以降に増加基調をたどり、6月には最大で3.8回(1回当たり0.25%換算)に達したが、この利下げの織り込みペースと米長期金利の推移はほぼ完全に連動してきた(図表3)。

nissei190806_3_4.jpg

また、市場の楽観(リスクオン=リスク選好)、悲観(リスクオフ=リスク回避)もドル円の大きな変動要因となってきた。リスク回避通貨と見なされる円は、市場が悲観に振れるリスクオフの局面で買われ、楽観に振れるリスクオンの局面では売られる傾向が強い。実際、昨年末から年初にかけては急激な円高が進行し、日米金利差に対しても下方に大幅な乖離が発生(図表2)したが、背景には米中摩擦や世界経済減速懸念によって世界的に株価が急落し、市場のリスクオフ地合いが強まったことがある(図表4)。一方、その後は5月上旬にかけて、米中通商交渉の合意期待や米利下げ観測の台頭に伴って世界的に株価が大きく持ち直したことがリスクオンの円売り圧力を発生させた。従って、この時期のドル円レートは日米金利差に対して上方に乖離している(図表2)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

SBG、オープンAIへの出資年内完了に奔走 投資売

ワールド

ロシア軍、ウクライナの村から民間人50人連行 スム

ビジネス

カナダ小売売上高、10月は前月比0.2%減 11月

ワールド

米原油先物が上昇、週末に米がベネズエラ沖で石油タン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 7
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 8
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中