最新記事

金融

FRBやECBなど世界が日本に注目? 日銀の低金利政策は特効薬か

2019年7月19日(金)12時00分

日本では、一部で成果を上げている。

日銀がYCCによる誘導目標設定の対象とした10年物国債の金利は、目標のゼロ%付近でほぼ推移している。小売売上高は過去31カ月間、1カ月だけを除いて前年比上昇している。日本では1990年代以降で初めてのことだ。

だがインフレ率は、日銀が目標とする2%には遠く届かず、一部ではYYCによってむしろインフレ目標の達成が遠のいたとの懸念も出ている。

元日銀理事でみずほ総合研究所・エグゼクティブエコノミストの門間一夫氏は、長期金利を低く抑える政策を長く続けること自体が、「かえって期待インフレ率を下げてしまうとの議論もある」と指摘する。

YCCの弊害

長期金利の抑制は、FRBに別の弊害を招く可能性がある。金利が急騰した際に巨額の国債買い入れを迫られることになり、量的緩和策に対する各方面からの批判が再燃しかねない。

日銀は2018年7月、FRBの利上げで世界的に金利が上昇し、10年物金利がじりじりと上がったことを受け、利回り0・11%で長期国債を無制限に買い入れる「指値オペ」を実施することを余儀なくされた。

日銀にとってさらに困難なのは、金利を一定の水準以上に維持することだ。低迷する金利を引き上げるために国債の買い入れを減らし過ぎれば、インフレ目標が達成されるまでお金を市場に支給し続けるという公約と矛盾するからだ。

FRBが今月の連邦公開市場委員会(FOMC)で金利を引き下げる見通しが強まり、日本を含め世界中で金利が低下した。日本の10年物国債の金利は先月、この3年で最低水準のマイナス0.195%に低下した。

「長期金利が相当長い期間マイナスに沈んだ状態が続いた場合、YCCは難しい局面を迎えるかもしれない」と、日銀の政策議論に詳しい関係筋は予測する。

ECBとFRBの間

FRBは2011年と12年に、資産規模を変えずに短期債を減らして長期債を増やす「オペレーション・ツイスト」という手法を試している。これにより、不動産ローンなどの借り入れコストが低下し、実際にインフレ率も一時上向いた。

だが、長期金利に再び明示的に誘導目標を設けることには政治的困難が伴う。中銀の「やり過ぎ」や市場介入への懸念が再び強まるためだ。

ECBにとっても、YCCは別の理由から実現が難しい。

ユーロ圏には共通の債券がないため、ECBは域内19カ国の国債のうちどれを対象にするかを決めなければならなくなるのだ。

もしECBが加盟国間の国債の金利差を縮めたり、誘導目標の対象にしようとすれば、財政規律の緩い国を守ったとの批判を浴びかねない。

FRBにとって鍵となるのは、米国債市場にどの程度の影響力を持ちたいか、あるいは持ち得るのか、という問題だ。

アナリストは、日本国債の市場における巨大な存在感が日銀の成功の鍵のひとつだと指摘する。成長率を回復軌道に乗せるため何年間も大量に買い入れた結果、日銀は発行済み国債の約45%を保有するに至っている。

対照的にFRBは、市場性のある米国債15兆9000億ドル(約1700兆円)のうち、現在13%程度しか保有していない。

日銀の政策に詳しい別の関係筋は、大量の国債保有によって「日銀は市場をかなりコントロールしており、それがYCCを相当強力なツールにしている」と指摘した。

(木原麗花記者、Howard Schneider記者、Balazs Koranyi記者、翻訳:山口香子、編集:久保信博)

[東京/ワシントン/フランクフルト 
ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます



20190723issue_cover-200.jpg
※7月23日号(7月17日発売)は、「日本人が知るべきMMT」特集。世界が熱狂し、日本をモデルとする現代貨幣理論(MMT)。景気刺激のためどれだけ借金しても「通貨を発行できる国家は破綻しない」は本当か。世界経済の先行きが不安視されるなかで、景気を冷やしかねない消費増税を10月に控えた日本で今、注目の高まるMMTを徹底解説します。

ニューズウィーク日本版 ISSUES 2026
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月30日/2026年1月6号(12月23日発売)は「ISSUES 2026」特集。トランプの黄昏/中国AIに限界/米なきアジア安全保障/核使用の現実味/米ドルの賞味期限/WHO’S NEXT…2026年の世界を読む恒例の人気特集です

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国軍、台湾囲み実弾射撃伴う大規模演習演習 港湾な

ワールド

トルコでIS戦闘員と銃撃戦、警察官3人死亡 攻撃警

ビジネス

独経済団体、半数が26年の人員削減を予想 経済危機

ビジネス

韓国クーパン、顧客情報大量流出で11.8億ドルの補
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中