最新記事

金融

FRBやECBなど世界が日本に注目? 日銀の低金利政策は特効薬か

2019年7月19日(金)12時00分

世界的に景気後退懸念が強まるなか、米連邦準備理事会(FRB)を含め、政策オプションの強化に頭を悩ませる各国の中央銀行当局者が、日本流の低金利政策に関心を寄せている。写真は東京の日銀本店前で2015年6月撮影(2019年 ロイター/Toru Hanai)

世界的に景気後退懸念が強まるなか、米連邦準備理事会(FRB)を含め、政策オプションの強化に頭を悩ませる各国の中央銀行当局者が、日本流の低金利政策に関心を寄せている。

日銀が2016年9月に導入した「イールドカーブ・コントロール(長短金利操作=YCC)」は、短期金利に焦点を当てた伝統的な中銀の手法と異なり、消費者の借り入れコストや消費行動に直接影響を及ぼす長期金利の誘導を目標にしている。

複数の関係筋によると、日銀にはFRBを始め、各国中銀からYCCについて問い合わせが来ているという。

最近ではブレイナード理事やクラリダ副議長など複数のFRB幹部が、この手法に言及している。ブレイナード氏は、この手法を選択肢に含めることには慎重なものの、「それについてもっと学びたい」と発言している。

YCCへの関心は、FRBと日銀、そして欧州中央銀行(ECB)という世界の三大中銀が直面するジレンマの裏返しといえる。2007─09年の金融危機以降、金利をゼロ%から一定程度以上引き上げることができたのは米国だけだが、そのFRBですら、世界経済の減速と根強い低インフレを受けて再び金利の引き下げを決断するとみられている。

仮に主要な経済大国が同時に「低インフレ、低成長、低金利」の世界に陥れば、教科書的な中銀の機能は、明確な代替策がないまま崩壊するとの見方が世界的に広がっている。

「多くの政策選択肢についてオープンに考えている」と、シカゴ連銀のエバンス総裁は話す。

「一番重要なのは、どんな政策を取るにせよ、それを用いてわれわれが義務を達成しようとしていること、そしてその政策が適切に設定されているかを示せることが重要だ」

新たな標準

FRBも日銀もECBも、危機対応で非伝統的な政策に全力を投じてきた。量的金融緩和政策で市場に出回る資金を増やすため、それぞれが数百兆円規模の資産買い入れに踏み切った。この金融緩和策の有効性には議論もあるが、今後も再び導入される可能性が高い。

中でも日銀は、他の中銀よりも一歩踏み込んでいた。

短期金利がマイナスになっても効果がほとんど見られないなか、日銀は2016年9月、停滞した消費を活性化させるため、長期金利をゼロ%付近に誘導するという大胆な実験に出た。

イールドカーブ・コントロールと呼ぶこの手法は、短期金利と長期国債利回りのそれぞれに誘導目標を設定する。目標達成のために必要な量の国債を買い入れるため、市場に政策目標が理解されやすくなり、企業や家計も計画が立てやすくなる。

FRBのブレイナード理事は、5月のFRBのイベントでこの手法についてこう述べている。

「われわれが伝統的に対象にしてきた短期金利がゼロ%になったなら、より長期の国債を対象にするかもしれない。例えば最初は1年金利を対象にし、もしさらなる刺激策が必要ならば、2年金利のカーブを対象とするなどだ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 8
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 9
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 10
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中