最新記事

経営

「知財」は米中貿易戦争の原因とだけ思っている日本人が知るべきこと

2019年4月26日(金)12時45分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

知財とは「強み」であり、「自社らしさ」も知財である

ただし、他社とデータを共有すると、似たような商品や戦略にたどり着いてしまう可能性も大いにあります。それでは独自性が失われ、結果的に、競争力を失ってしまうことにもなりかねません。データは共有しつつも、その先に「自社らしさ」をどう付加していくかが重要です。

実は、その「自社らしさ」もまた知財です。最初に述べたように、知財とは企業の「強み」です。企業イメージやブランド力、あるいはノウハウやネットワークを活かすことで、他社と違う自社ならではの戦略を作り上げることになります。

これは、グローバル競争で生き残っていくためにも不可欠なことです。今、世界の巨大企業の中には、一国家に匹敵する規模の企業が次々と誕生しています。その中にあって、日本企業の規模はさほど大きくなく、また、数多くの中小企業が国内だけで活動しています。

中小企業は、まだまだ輸出に踏み出せていない企業が多いのですが、その一方で、海外企業はどんどん国内に進出してきます。ぼんやりしていると、あっという間に国内シェアすら持って行かれてしまいます。1社で戦うのは難しい場合もあり、そこで協業や連携も選択肢として考えることになりますが、自社の強みを知財・経営資産として明確にしておかなければなりません。

「自社らしさ」という点で言えば、日本製品の質の高さは、現在でも世界に誇れる「日本らしさ」であり、日本企業の大きな強みです。企業が集まってブランドとして構築するなどして、「ジャパンクオリティ」を知財として積極的に活用していくことも日本企業の有効な戦略ではないかと思います。そのために日本企業間で持っている知財を互いに使い合う、パテントプールの可能性も考えておく必要があります。それについても本書で提案しています。

中国や欧州の知財ルールを理解し、行動していくことも重要

世界という視点で知財を見ると、昨年から世界経済を揺るがせている米中貿易戦争も、知財の取り扱いがその大きな理由となっています。

中国は、広大な国土に14億人もの人口を抱えているため、国内だけで大量のデータを取得することができます。日米欧に立ち後れている分を巻き返すために、そのデータを自国だけで使いたい、と考えるのは当然のことと言えます。そのため、中国は特に産業データの規制が厳しくなっています。

一方で、歴史的に個人の権利を尊重する傾向が強いヨーロッパでは、すでに個人情報の取り扱いに規制が設けられています。例えばEU加盟国でもらった名刺のデータは、EU外に持ち出すことができません(日本はEUと特例を交わしているため、実際には規制の対象にはなりません)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ政権、カリフォルニア州提訴 選挙区割り変更

ワールド

米政府、独などの4団体を国際テロ組織指定 「暴力的

ビジネス

米経済にひずみの兆し、政府閉鎖の影響で見通し不透明

ワールド

トランプ氏がウォール街トップと夕食会、生活費高騰や
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 5
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 6
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 10
    「ゴミみたいな感触...」タイタニック博物館で「ある…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中