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無印良品は堤清二の「自己矛盾」だった

2018年12月28日(金)10時45分
印南敦史(作家、書評家)

Newsweek Japan

<西武百貨店にパルコ、西友、ファミリーマート、吉野家......経営者・堤清二がつくり上げた「セゾン文化」のエッセンスは日本人の生活に根づいている。無印良品もその1つだが、矛盾の産物でもあった>

『セゾン 堤清二が見た未来』(鈴木哲也著、日経BP社)の著者は、日経ビジネス副編集長。1998年に初めて、日本経済新聞でセゾングループを取材する役割を与えられたのだという。そしてそれから4年後に、セゾングループの事実上の終焉に立ち合うこととなる。


 私は1993年に日本経済新聞社に入社し、小売業をはじめとする消費関連分野を中心に取材してきた。2003年から4年間、米ニューヨークに駐在していた時にも、西友を買収した世界最大の小売業ウォルマート・ストアーズなどを現地で取材した。2015年からは、日経BP社に出向して、経済誌『日経ビジネス』の副編集長として、引き続き消費関連などを担当している。(「はじめに」より)

以後もさまざまな企業や業界の取材を重ねてきたというが、時間の経過とともに「セゾングループ担当時代に、なにか大きなものを伝え残していたのではないか」という思いが浮かぶようになっていったのだそうだ。


 セゾングループが崩壊していく当時、各社の記者は、連日のように事業の売却など、リストラや再建策を報じていた。それが金融危機に苦しむ日本経済にとっても、重要な意味を持っていたからだ。
 その過程で、セゾングループを率いた堤清二については、巨額負債をつくった張本人、いわば"A級戦犯"と位置づけて記事を書いた。
「一連の破綻劇は、バブル経済とその崩壊の象徴であり、右肩上がりの消費社会に咲いた"あだ花"は堤清二とセゾングループだった」
 平たく言えば、こんなイメージが、各社の記事によって世の中に広がった。
 現代でも、経営者・堤清二とセゾングループをこう評価する向きは多い。その流れをつくった一人が、私だったのかもしれない。(「はじめに」より)

著者はそう振り返るが、その一方で、あることを感じてもいたようだ。セゾングループも堤も、そうやってひと言で切って捨てられるほど単純な存在ではないということである。

堤がつくり上げた「セゾン文化」のエッセンスが、知らず知らずのうちに日本人の生活の内部に根づいていることがその証拠だ。この点については、共感できる人も多いのではないだろうか。

だからこそ、セゾングループの歴史をたどることによって、改めて堤が遺した大切なものを掘り起こせるかもしれない。著者はそのような考えから、かつてセゾングループに属した主要企業の現役経営者やOBなどを改めて取材。そしてそこで得たものを、2017年11月から『日経ビジネス』において「堤清二 先見と誤算」として10回にわたって連載した。本書は、その連載に大幅な加筆を加えたものだ。


 1990年代以降、グローバル資本主義が地球を席巻し、「数字化できる利益こそが至上の価値」という考え方が企業社会を支配して着た。消費文化もその影響を受けた。
 だが堤が提示したのは、数字だけで人間の幸福や楽しみ、よろこびを評価する価値観に対する明確なアンチテーゼである。(「はじめに」より)

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