最新記事

中国経済

人民銀行介入でオフショア人民元への不信増大、先安観変わらず

金融自由化の象徴ともてはやされた存在から今では通貨統制の戦場へ

2016年1月13日(水)17時31分

 オフショア人民元市場は、5年前の創設時には中国の金融自由化の象徴ともてはやされたが、最近は通貨の統制回復に向けた戦場へと様変わりしている。投資家は振り回され、将来性に懐疑的な見方が広がっている。

 一般に「CNH」として知られるオフショア人民元をめぐっては、昨年8月の突然の元切り下げを受けて投資家心理が悪化。さらに、中国人民銀行(中央銀行)がここ数週間に講じた相場押し上げ策によって信頼感が一段と揺らぎ、中国の為替政策への不透明感が高まることになった。

 オンショアとオフショア相場は、先週には2%以上の開きがあったが、人民銀行の介入などの結果、スプレッドは12日にほぼ解消した。

 香港にある欧州系多国籍企業の財務担当者は「通貨価値や調達コストがこれほど急激に変動すると、ヘッジはほぼ不可能だ。人民元にまとまったエクスポージャーを持つ企業には頭の痛い問題」と述べた。

 2010年に誕生したオフショア人民元市場は香港からシンガポール、台湾、ロンドンへと広がった。人民元は、中国国内の市場では当局による厳しい管理下に置かれているため、オフショアで市場実勢に沿った相場で取引できることは投資家に大きな魅力となっている。

 オフショア市場は人民元の国際化にとって不可欠だ。中国政府は、資本勘定の開放を進め、2020年までに上海を世界金融ハブにするという目標を掲げており、世界全体の人民元建て預金残高は、2015年のピーク時には2兆元(約3000億ドル)近くまで拡大した。

介入で広がる不信感

 ところが、中国人民銀行はここ数週間、投機の原因となっていたオフショアとオンショアの人民元相場の差を縮小するための措置を相次いで打ち出した。そのため、市場の信頼性をめぐる疑念が広がっている。

 中国当局は、オフショアで営業している中国の銀行と外資系の銀行に対して、ドル購入の制限のほか、オフショア銀行に対するオンショア融資の停止を要請。さらに、国有銀行を通じた大規模な介入にも乗り出した。

 介入で流動性が干上がり、翌日物の人民元調達コストが高騰。通常は10%を下回っているが、12日朝方には一時96%まで上昇した。

 人民銀行は昨年9月、オフショア人民元市場に初めて介入した。しかし、今回の介入規模はそれをはるかに上回る。欧州系銀行のトレーダーの試算によると、人民銀行はこの1週間で100億─200億ドルのドル売り介入を実施したという。9月は10億─30億ドルだった。

 東亜銀行(香港)のシニアマーケットアナリスト、ケニックス・ライ氏は「頻繁に介入すれば、人民銀行の人民元市場自由化への本気度やその政策の信頼性について、投資家の確信が揺らぐことになる。過度の介入は人民元の国際化にとってマイナス」との見方を示した。

 大規模な介入にもかかわらず、人民元の先安観はなお強い。

 1年物ノンデリバラブル・フォワード(NDF)が示唆する相場は1ドル=6.89元で、現在のスポットのオフショア相場から人民元が4.9%下落することになる。ゴールドマン・サックスは来年末時点の人民元の予想をこれまでの6.8元から7.3元へと大幅に修正した。

 (Saikat Chatterjee記者、Michelle Chen記者 翻訳:吉川彩 編集:橋本俊樹)

 

[香港 13日 ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2015トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米空港で航空便の遅延継続の見通し、政府閉鎖8日目 

ワールド

米国務長官、9日のガザ巡るパリ会合欠席 政府閉鎖の

ワールド

ロシア、米が核実験実施なら「直ちに同様の対応」=外

ワールド

EU、ロ産エネルギー脱却へ一歩 輸入段階的廃止法案
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ「過激派」から「精鋭」へと変わったのか?
  • 3
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示す新たなグレーゾーン戦略
  • 4
    ヒゲワシの巣で「貴重なお宝」を次々発見...700年前…
  • 5
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 6
    インフレで4割が「貯蓄ゼロ」、ゴールドマン・サック…
  • 7
    【クイズ】イタリアではない?...世界で最も「ニンニ…
  • 8
    「それって、死体?...」新婚旅行中の男性のビデオに…
  • 9
    祖母の遺産は「2000体のアレ」だった...強迫的なコレ…
  • 10
    筋肉が育つだけでは動けない...「爆発力」を支える「…
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレクトとは何か? 多い地域はどこか?
  • 3
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 4
    赤ちゃんの「耳」に不思議な特徴...写真をSNS投稿す…
  • 5
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    祖母の遺産は「2000体のアレ」だった...強迫的なコレ…
  • 8
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 9
    更年期を快適に──筋トレで得られる心と体の4大効果
  • 10
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中